小説の解剖学

小説の解剖学 (ちくま文庫)

小説の解剖学 (ちくま文庫)

本日は、山形市で「小説家になろう講座」を受講してまいりました。今月の講師は、フランス文学者で映画や漫画の評論家としても活躍されている、中条省平先生です。


この講座は、受講生から提出されたテキストを教材として、通常は

  • 受講生による批評・質問
  • 作者による解説
  • 講師による講評

という順序で進行するのですが、中条先生が講師のときは特別で、頭から最後まで中条先生のトークがノンストップで続くという非常に贅沢な構成になっています。


今回の講座では、中条先生は「読者に与えるイメージを明確にする」テクニックを重視してテキストを添削され、「小説家の仕事は、正確な一言を探り当てること」とおっしゃっていました。文中でイメージを訂正せざるを得ないような矛盾した書き方をしたり、間違った言葉遣いをすると、読者の作者への信用を失わせることになるんですね。


そのためにも、専門用語の使い方には細心の注意が必要です。

新・実用服飾用語辞典

新・実用服飾用語辞典

とくに、作家や翻訳家にとってファッション用語辞典は必須アイテムだ、と中条先生はおっしゃっています。


しかも、ファッション用語はすぐに流行が変わって死語になるので、常に最新版を持っていないと作品がイタくなります。これは重要な指摘ですね。


死語といえば、先月の講師だった大沢在昌先生も、(ファッション用語ではないけど)「つい”アベック”という言葉を使ってしまうんだよ」と、懇親会の席でおっしゃっていました。


”アベック”という言葉、いつから使われなくなったんでしょうね。1988年に名古屋で起こった、少年グループが男女ふたりを殺害した事件は、今でも「名古屋アベック殺人事件」と呼ばれていますので、少なくとも昭和時代いっぱいは使われていたことがわかります。今では”アベックホームラン”ぐらいでしか使われませんけどね。


また、人物の名づけ方も重要で、最近は凝った名前を付ける親が多いので、それなりの名づけ方をしないとリアリティが出ませんが、あまりにヘンな名前を付けるのも中二っぽくていけません。


中条先生の知人で、いちばん凝った名前を付けた人は、息子の名を「航」と書いて「ユリス」と読ませているそうです。ギリシャ神話の英雄オデュッセウス(英語読みでユリシーズ)の航海にちなんでつけたという、カッコイイ名前ですが、乞食に変装して漂流から帰還したユリシーズの正体を最初に見破ったのが彼の飼い犬だったという故事にちなみ、フランス語圏で「ユリス」というのは犬によく付けられる名前なんだそうです。


あまり凝り過ぎるのも考え物、ということです。この辺のさじ加減は難しいところですね。