味で勝負

はてなには特に多い、日本の一部のコミュニティに属する人々にとって、「キモイ」という言葉は部外者にははかり知れないほど深刻なダメージを受けるもののようで。


今回もりあがっている、発端はこちら。


創作活動と「晒されたもの負け」の恐怖。 - たまごまごごはん
エロも含む萌え系の論客として有名な「たまごまごごはん」さんが、紺條夏生の『妄想少女オタク系』最新話の感想を述べたエントリです。主人公には、かつてオタクゆえにいじめられていた相棒がいるのですが、ふたりで運営するやおいサイトが2chに晒されたことにより、過去の経験もあって相棒の子は深く傷つく、というお話。これを「悪意って怖いねー」とたまごまごさんは書いているわけです。

妄想少女オタク系 5 (アクションコミックス)

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この話は、どこにでもありうる話ではありますが、あくまで漫画のストーリー上、個別性の高いエピソードであって、主人公たちのパーソナリティと切り離された一般論として語るべき内容ではないように、ぼくには思われました。
b:id:y_arimブコメによると、この晒しは、主人公と因縁のある人物の、私怨による行為の可能性が高いらしい。そういう事情があるならなおさらだ)


とくに、このストーリー上で主人公たちが受けている圧力は、彼女たちのオタク性よりむしろ女性性に、強くかかっていると思うんですよね。男のオタクが受ける圧力と、女のオタクが受けるそれは質的にかなり異なっていることを無視してはいかんと思います。


ですが、このエントリは「キモイという言葉を使うんじゃねえようウワーン」派(略してキモ言使ーン派、さらに略してモン派)のお歴々の「そうだ! とにかくキモイという言葉を使う奴らがいけないんだ!」という反応を呼び、派生エントリにもモン派のお歴々が吹き上がっているのが見られます。


とくにすごいのがこちら。
http://d.hatena.ne.jp/ululun/20091127/1259298490
はてなブックマーク - キモイって言われて傷つきましたって泣くのって、自ら「オタク」を否定してなくね? - 煩悩是道場
まぁululun氏の言うこともわかりますが、そもそも元記事はアマチュアの女子高生のお話ですからねぇ。岡本太郎は他人から何を言われても気にしない境地にあったかもしれませんが、元記事で取り上げていた漫画は、その境地に至っていない人がこれから成長していく姿を描いていくんでしょうから、この批判はちとズレてる感もなくもないというか。


でも、このululun氏の記事へのブクマページは、もうモン派のお祭りみたいで壮観ですね。とにかく、キモイという言葉がいかに人を傷つけるか、と暗に自分が受けてきた傷の大きさを競い合う、初顔合わせした傭兵たちの戦歴自慢みたいになってますね。


キモイという単語は人格否定であって差別用語であって思考停止であって対話拒否であって最後通告なんだそうですが、えーと、それってぼくもキミたちもみんな大嫌いな、”言葉狩り”とどう違うの?

封印作品の謎―ウルトラセブンからブラック・ジャックまで (だいわ文庫)

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自分に向けられた言葉は無条件に悪いもの、他人に向けられたものは”ただの言葉”、というのは筋が通らないと思うので、みんな明日からちゃんと「障がい者」と書くように、ね。



それにしても「キモ」「キモ」って、みんなそんなに初期UFCが好きなのかと思わされてしまいますねぇ。


現在でも行われている究極格闘技「UFC」は、1993年9月に、ホリオン・グレイシーのプロデュースによって、第一回アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップが、コロラド州デンバーで開催されたのが始まりです。当初はシロウト同然の選手が殴り合いをする低劣なイベントと目されていましたが、世界的にはまだ無名だったホイス・グレイシーと、グレイシー柔術の驚異的な強さによってにわかにヴァーリ・トゥードが脚光を浴びることとなりました。優勝候補と目されていたケン・シャムロックMMAのみならずWWEでプロレスラーとしても活躍)とジェラルド・ゴルドー(無表情で人の眼をえぐるマジで怖い空手家)もホイスの前になすすべなく敗れたのは、当時の格闘技ファンに大きな衝撃を与えたものです。


翌年3月の第二回大会でもホイスは圧倒的な強さで優勝(大道塾市原海樹や、日本でも知名度の高いジェイソン・デルーシアやパトリック・スミスら強豪を連破して)しましたが、第三回大会で思わぬ苦戦を強いられることとなりました。


1994年9月に行われたUFC3において、ホイスは一回戦で「怪人」キモと対戦しました。腹部に”JESUS”のタトゥーを入れ、十字架を背負って入場するというイロモノめいたパフォーマンスを見せたキモですが、その肉体は素晴らしい筋肉美を誇り、いざ試合が始まれば、そのパワーでホイスを苦しめます。


苦しみながらもなんとか十字固めで勝利したホイスでしたが、激闘のダメージは深く、二回戦(準決勝)を棄権します。これがグレイシー柔術はじめての敗北となりました。


ちなみに、この大会では、ホイスのライバルと目されていたシャムロックも準決勝で負傷して決勝戦を棄権し、一試合しかしていないリザーバーが優勝するという結末に終わったのも、今となっては思い出深いところです。



キモはその後も微妙な実力とキャラクター性でファンに愛され、テレビ朝日系で放送されていた格闘技バラエティ番組「リングの魂」でも、「キモと肝を食べよう」などというくだらない企画に付き合ってくれたものでした。


(ちなみにこのシリーズはアンディ・フグとふぐを食べよう」「ジェラルド・ゴルドーボルドーを飲もう」「ホイス・グレイシーとライスを食べよう」「フランシスコ・フィリオヒレを食べよう」など素晴らしくくだらないものばかりであった。今ならばアンディ・サワーとレモンサワーを飲もう」とかヴァレンタイン・オーフレイムとバレンタインチョコを食べよう」「ミノワマンと上ミノを食べよう」ってトコだろうか)


プロレスラーとの対戦も多く、桜庭和志高山善廣クラッシャー・バンバン・ビガロ永田裕志にも勝利していますが、最近は覚せい剤所持で逮捕されるなどトラブルが多く(逮捕時には警察の制服を盗んで着用していたという奇行も注目された)、今年の7月には死亡説が流れたこともありました。でもこれは誤報だったようで、「オレは死んでない」と本人が否定コメントを出していましたけどね。


美味しんぼ (1) (ビッグコミックス)

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キモといえば、冬はアンキモのおいしい季節です。上等の鮟鱇の肝はフォアグラにも負けないおいしさだと山岡士郎も申しておりますので、モン派のお歴々も、キモいキモいと毛嫌いせずに一度ためしてみるといいと思うです。酒蒸しをポン酢で食べるのが一番スタンダードですが、鍋も良し。具として入れてもいいし、蒸した肝をポン酢に溶いて、鍋で煮た身をつけて食べるのも格別のおいしさ。肝をから煎りして味噌と酒で溶き、だし汁で伸ばして大根と鮟鱇の身を煮た”どぶ汁”も、見た目はキレイではありませんがとんでもなくおいしいです。寒い季節のぜいたくをぜひ!
アンコウ鍋1kg・アン肝200g

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