Shake Your Head

(笑福亭系のディストーション声で読むと吉)


えー昔から、「ところ変われば品かわる」と申しますが、上方ではですな、朝に顔を洗うたりするのを「手水を使う」と、こぉ申したもんでございます。ところがこの言葉も、大阪をちょいと離れて丹波のほうまで行きますと、これがかいもく通じなくなったそうな、そんな時分のお話でございます。


ある大阪の人が、商用で丹波の宿に泊まりました。あくる朝になりますと、町中と違うて景色がきれいで、そのうえ空気も澄み切ってございます。


あぁ、気持ちがええなぁ。今朝はここで顔を洗わしてもらおか。パンパン(手を叩く)これこれ、お女中、悪いが手水を廻しておくれでないか。


へ、へぇ。ちょ…ちょうず、でございますか。主と相談して参りますのでしばらくお待ちを…旦那さま、旦那さま。


なんや、お清。


あの、ゆうべお泊りになった大阪のお客さまが、ちょうずを回してくれ、言うてはりますが。


ちょうず…? 困ったな、わしもそんなん知らん。おい、板場の喜助や、ちょいとお寺まで行って、和尚さんに聞いてきなさい。


へぇ、ほなら行ってきますわ。 ドンドン(戸を叩く)和尚さん、いてはりまっか。


はいはい、おおこれは丹波屋の喜助どん、どうなされた、えらい急いて。


へぇ、実は大阪から来たお客さんが「ちょうずをまわせ」言わはったんです。お恥ずかしい話だすが、わてら皆目わかりまへん。和尚さんなら物知りでっさかい、知ってはるかと思いましてな。和尚さん、「ちょうず」って何ですやろうか。


ほぅほぅ、大阪の人が「ちょうずをまわせ」と。ちょうず…ちょうず…と。うむ、これはなんでもないこっちゃ。喜助どん、「ちょうず」とは「長い頭」と書いてそう読みますのや。つまり、お客さんは「長い頭を回してくれ」と、こう言うてはるのじゃ。


へ、へぇ、長い頭を。そらけったいなことですが…長い頭なら心当たりがおます。和尚さん、おおきに。ほな。
…旦那さん、旦那さん、行ってまいりました。ちょうず言うのは、長い頭のことだそうで。


おうご苦労さん。ほぉ、長い頭。大阪のお人は難しいこっちゃなぁ。でもうちに長い頭なんて、あるかいな。


旦那さん、実はわてに心当たりがおます。隣村に市兵衛いう男がおりましてな、これが二尺の手ぬぐいでも頬かむりができん、いうぐらいの長い頭ですのや。


ははぁ、わかった。あのお客さん、その男の評判を聞いて、ここに泊まった土産に見ていこうと思てはるのやな。喜助や、早速そのお人を呼んできておくれ。


…あのう、旦那さん。喜助どんが呼びにきてくれましたんですが、なんぞわたくしに御用ですやろか。


おう、お前さんが市兵衛さんかいな。なるほどこれは長い頭やなぁ。いや実はな、大阪からお越しのお客さんが、お前さんのその長い頭を、旅の土産にぜひ見ていきたいと言うてはるのや。お礼はさせてもらうでな、お前さんのその頭を、お客さんの前でこう…グルグル回してもらうわけにはいかんかな。


あぁ、そんなことならあっちゃこっちゃでやってますさかい、お安いご用です。で、お客さんはどちらで…?


やってくれるか、ありがたいこっちゃ。お客さんは離れに泊まってはる。さいぜんから庭先に出てお待ちや。よろしう頼むで。


…かなんなぁ、この宿は顔を洗うだけでいつまで待たせるのや。パンパン(手を叩く)これこれ!


えーお客さま、失礼いたします。


なんや、ずいぶん頭の長いお人が来たで。お前さんが手水を廻してくれはるのかいな?


へぇかしこまりました。ではさっそく…グルングルン、グルングルン、こないなもんで、どうでっしゃろ。


…何をしてんねん、この人は。はよう廻しておくんなはれ。


えぇ、もっと早うですか。グルグルグル、グルグルグル、グルグルグル…


いや、それはええから、はよう手水を廻してもらわんと!


も、もっと早うですかぁ。かなわんなぁ。ほな、このエントリでも見せてもらわんと。


http://alfalfa.livedoor.biz/archives/51523453.html

何やこの人、頭を回したかと思たら今度はノーパソ開きはじめたで。もうええ、こんな手水も使わしてもらえんような宿はどもならん、わしゃもう発つで!


…と、こうしてお客は発ってしもうて、旦那さんと喜助どんは「ちょうず」いうのが何のことか調べるために、大阪の日本橋に宿をとるわけですが、そんなところまで書かんでもええですわな。