闇の空手家

Amazonで買った、山岸涼子先生の「わたしの人形は良い人形」を読みました。

収録作品は次の4篇。

  • 千引きの石

古い体育館に棲みついた怨霊の物語。


死霊たちが、団子状態になってヒロインを地の底に引き込もうとする姿が、なんか「おらといっしょにぱらいそさいくだ」みたいだなーと思いました。

はてなキーワードにもなっている有名な作品です。


インチキ霊能少女サワが、ロケに来た幽霊屋敷で恐ろしい怨霊に襲われるというもの。


その霊はサワにだけ見え、同行していたベテラン霊能者たちにはまったく見えないので、彼女がいくら恐怖を訴えてもスタッフの誰も取り合ってくれないという孤立感が恐怖の肝になってますね。


で、その霊の正体は、母親に成長の止まる薬を飲まされて小人になったかつての子役スター、舞あけみ。

母親を絞殺し自殺した彼女の霊が、自分と似た境遇にあるサワにだけ姿を見せていたのでした。



その姿は、少女っぽいワンピースの服を着た小さな体に、大人の顔が付いているという不気味なもの。


その顔が、ニューヨーク・ヤンキース松井秀喜に似ているとよく言われているのですが、わたし的にはむしろ、夢枕獏先生の「獅子の門」に出てくる、(板垣恵介先生の挿絵で)松井を外見上のモデルにした空手家、久我重明の女装に見えました。
長髪だし。

獅子の門 雲竜編 (カッパ・ノベルス)

獅子の門 雲竜編 (カッパ・ノベルス)

また、サワが急死したことと、舞あけみの姿がビデオに写り込んだことのために放送禁止になる、というクダリは、「本当の心霊映像は、隠されていて出てこない」という、心霊もののセオリーの元祖ではないかと思われます。

  • ネジの叫び

金持ちの娘セシルと結婚した男が、事故死した彼女の亡霊に苦しめられる物語。

この短編だけ、執筆時期が1971年と古く(ほかは80年代)絵がまったく違うのでかなり違和感があります。


オチも、交通事故で瀕死の重傷を負った彼が、命は取り留めたものの精神を破壊され、

彼はいまも 精神病院の束縛服の中で

セシルのまく ネジの音をきいている

という、現在の人権擁護の観点から見るとちょっとどうかと思う記述になっておりました。

  • わたしの人形は良い人形

中島らもも絶賛していた表題作。


亡くなった女の子の副葬品として葬られるはずだった市松人形が、女の子の死体を求める怪物になって祟りを為す、というお話です。



チャッキーと違ってこの人形はしゃべらないので、いかにも日本の怪談らしい不気味さがありました。


ただ、ラストでなんでヒロインの友人のところに行ったのか、よくわかりませんでした。


全体を通して

幽霊そのものの怖さより、その怖さを誰にも認めてもらえない孤立感や、怪異の事情がわからない焦燥感が強く出ていたと思います。


この辺は、男の子向けの怪奇漫画やホラー映画とはひと味違った感覚で、わたしにとってはとても新鮮なものでした。


ただ、読む前に情報を入れすぎたため、素直に怖がれなかったのが残念なところです。

これが、情報化社会の弊害ってやつですか(たぶん違う)





コト