金田一耕助西へ行く

古典的推理小説には「ノックスの十戒」とか「ヴァン・ダインの二十則」という、創作上のマナーのようなものがあります。

といっても、こういうルールというのは破るためにあるようなもので、これを破った名作というのもまた枚挙に暇がありません。

アクロイド殺し (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

アクロイド殺し (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

これなんかはその代表ですね。


さて、横溝正史先生の金田一耕助シリーズにも、このルールを逸脱した名作があります。

悪魔が来りて笛を吹く」は、金田一ものの中でも人気の高い一作。
帝銀事件をモチーフとした大量毒殺事件を背後に、斜陽華族の惨劇を描いた、醜悪さと耽美の程よくミックスされた作品です。


この小説が二十則のどこを破っているかというと、第16「よけいな情景描写や、わき道にそれた文学的な饒舌は省くべきである。」ですね。


作品の中盤において、事件の鍵を握る過去の秘密を調査するために金田一耕助は須磨へと旅します。
その旅程のゆったりとした情景描写は、当時の評論家からも「味がある」と絶賛され、ご本人もそこに自信をお持ちのようでした。

この作品は、テレビや映画で何度か映像化されています。古谷一行金田一を演じるこちらのバージョンでは、金田一と同行する出川刑事を演じているのが森次晃嗣名探偵&モロボシダンというすごい取り合わせです。
goo映画: Movie × Travel — 旅のような映画 映画のような旅
こちらは、東映で映画化されたバージョン。金田一耕助を演じているのは西田敏行人間味ありすぎです。おまけにヤミ屋のボスは梅宮辰夫。さすが東映

で、この映画で金田一に同行して須磨に行く出川刑事が、藤巻潤大山倍達の義弟ですね。

強くなれ!わが肉体改造論 (幻冬舎文庫)

強くなれ!わが肉体改造論 (幻冬舎文庫)

おまけに、彼らが淡路島に渡る船の船頭が、特別出演の中村雅俊。上機嫌で「東京ブギウギ」を歌うという、誰に向けたサービスなのかよくわからない役どころでした。

漫画化もされており、こちらは定評のあるJET先生によるもの。

殺される華族たちの醜悪さが際立っていて、妹萌え」という幻想を粉々に打ち砕く内容になっております。妹だって、歳を取ればおばさんになるんですよ。

こちらは、影丸穣也先生によるもの。

悪魔が来りて笛を吹く (講談社漫画文庫)

悪魔が来りて笛を吹く (講談社漫画文庫)

原作は横溝正史とクレジットされていますが、内容は東映の映画版を忠実に漫画化したものです。
・・・あんまり聞かない形態ですね。