2月の告知

さて、今月の「せんだい文学塾」と「山形小説家(ライター)講座」の告知をここで。

せんだい文学塾

中村文則(なかむら・ふみのり)氏

 1977年、愛知県東海市出身。2002年、「銃」で第34回新潮新人賞を受賞しデビュー。2004年、『遮光』で第26回野間文芸新人賞、2005年、『土の中の子供』で第133回芥川龍之介賞、2010年、『掏摸<スリ>』で第4回大江健三郎賞を受賞。


 ミステリ的な要素を含みつつ、人間性を見据えた純文学作家として注目されている。英訳された作品も多く、2014年には、ノワール小説への貢献により、アメリカでデイビッド・グーディス賞を受賞している。2016年には、『私の消滅』でBunkamuraドゥマゴ文学賞(選者は亀山郁夫氏)を受賞した。

私の消滅

私の消滅

  • 講座テーマ:「何を書く、どう書く。過去の作家から学んだもの」
  • 会場:仙台文学館仙台市青葉区北根2丁目7−1)http://www.sendai-lit.jp/
  • 定員:90名(先着順、定員に達ししだいしめきり)
  • 受講料:一般2000円、学生1000円、高校生以下無料
  • お申し込み/お問合せ:せんだい文学塾運営委員会 sendaibungakujuku@gmail.com TEL080-6013-5008

山形小説家(ライター)講座

  • 2月26日(日)13時30分開場、14時〜16時開講
  • 講師:中島京子直木賞作家)
中島京子(なかじま・きょうこ)氏

 東京都出身。東京女子大学文理学部史学科卒。

 出版社勤務、フリーライターを経て、2003年『FUTON』で小説家デビュー。
 2010年、『小さいおうち』で第143回直木三十五賞受賞。2014年、『妻が椎茸だったころ』で第42回泉鏡花文学賞受賞。2015年には、『かたづの!』で第3回河合隼雄物語賞・第4回歴史時代作家クラブ作品賞・第28回柴田錬三郎賞をそれぞれ受賞、『長いお別れ』で第10回中央公論文芸賞・第5回日本医療小説大賞をそれぞれ受賞。

彼女に関する十二章

彼女に関する十二章

この講座について

  • 文芸評論家の池上冬樹先生が、アドバイザーとしてご指導されています。仙台と山形で運営母体は異なりますが、進行や雰囲気はほぼ共通しています。
  • ゲストとして、大手出版社の編集者が参加することもあります。
  • 「山形小説家(ライター)講座」からは、「このミス大賞」出身作家の深町秋生さん、大藪春彦賞作家の柚月裕子さん、日経小説大賞を受賞された紺野仲右ヱ門さん、怪談作家として各所で暗躍中の黒木あるじさん、小説現代長編新人賞でデビューし、男性的で骨太な小説が好評な吉村龍一さん、徳間書店より『谷中ゲリラアーチスト』を刊行されデビューした織田啓一郎さんを輩出しています。
  • 「せんだい文学塾」の受講生からも、各種の文学新人賞で最終候補まで残った方が出ています。
  • 受講生から提出されたテキスト(短篇小説、エッセイなど)を教材として採用しております。一流の作家や評論家に自作を読んでもらえる、めったにない機会です。 創作をされる方は、いちど提出してみては。
  • プロ作家志望の方から、読書の楽しみを深めたい方や、ベストセラー作家の人となりに興味のある方まで、どなたでも気軽に参加できます。すでに本を出されている方も歓迎します。
  • 講座の進行としては、まず受講生にテキストを読んでの感想・作者への質問などを求めます。ついで作者による解説、それから講師による講評という流れで進めます。無言で参加することもできますが、なるべく発言したほうがより楽しめます。
  • 講座終了後には、講師の先生を交えての懇親会も開催します(会費は4000〜5000円ていど)。こちらへも参加されると、より深く楽しめます。
  • 近郊にお住まいで文芸に興味のある方、土日に東北へ旅行される方、ついでにワッシュ手作りのお菓子に興味がおありの方は、どうぞご参加ください。

2017年のUWF

柳澤健のプロレス史探訪シリーズ(オレが勝手にそう呼んでるだけ)最新作『1984年のUWF』を読みました。

1984年のUWF

1984年のUWF

1984年のUWF (文春e-book)

1984年のUWF (文春e-book)

(電子版もあります)


男子プロレスを扱った過去作の『1976年のアントニオ猪木』『1964年のジャイアント馬場』には、いずれも神話解体という作用がありました。『猪木』では、主としてモハメド・アリ戦における「アリ側から理不尽な要求を受けたが果敢に戦った猪木」という神話の解体。『馬場』では、「ショーマンスタイルで実力では猪木に劣る」という猪木が作った神話と、「篤実で有能な経営者」という主としてターザン山本が作った、正負両面における神話の解体。

完本 1976年のアントニオ猪木 (文春文庫)

完本 1976年のアントニオ猪木 (文春文庫)

1964年のジャイアント馬場

1964年のジャイアント馬場



そして『1984年のUWF』では、主として第1次UWFの興亡を描いていることもあり、佐山聡が不在となって以降のUWFを、ファンやマスコミや文化人が作り上げた「真剣勝負」「クリーンなスポーツ」「空前の大ブーム」というイメージに乗っかり、佐山のアイディアを模倣しただけの空虚なムーブメントと断じることで、「格闘王前田日明」の神話を解体する作用を生んでいます。


猪木や馬場より時代が新しく、読者として想定されている世代がちょうどリアルタイムで体験してきた神話だけに、その解体には反発も少なくありません。「前田の妥協なきファイトスタイルを恐れ、猪木が陰謀をめぐらせてドン・中矢・ニールセンやアンドレ・ザ・ジャイアントを刺客として送り込んだが、前田はことごとく勝利し、手に負えないと解雇され、第2次UWF時代の寵児となった」という神話を「ニールセン戦は通常のプロレスだったが、前田が勝手に疑心暗鬼になっていただけ」「アンドレがセメントを仕掛けてきたのは、前田がアンドレ配下のレスラーを負傷させたことへの制裁」と、説得力がありつつミもフタもない神話解体が続くので、あのころの熱にうかされた自分を覚えている身としては「もう勘弁してください」と言いたくなるところもしばしばでしたよ、ええ。



とはいえ、この本には一種の叙述トリックが仕掛けられている、ということを念頭に置いておいてもいいでしょう。


UWFの試合が、真剣勝負のスポーツと偽ったショープロレスだったのは事実ですが(プロレスはどれも真剣勝負を模したものではあるが、UWFのそれは度を越していたと言わざるを得ない)、そこでの対比で出てくる格闘技関係者が、ジェラルド・ゴルドー石井和義堀辺正史といった、相当ナニな人物ばかりなので「イヤそう言うけどアンタらだってそんな立派なスポーツマンじゃないやろ」というツッコミは、いつでも入れられる構造になっています。当時の格闘技にある程度くわしい人なら説明不要のメタ構造ですが、そこを踏まえて読む必要はあるといえるでしょう。



そして、UWFが真剣勝負の格闘技を模したプロレスをやってきたことで、その影響を受けて本物の総合格闘技が花開いた、という結論が導き出されるわけですが、UWFが果たした歴史的使命は、決してそれだけではない。プロレスの面白さを広げることに寄与した点も、決して無視はできないでしょう。
地味で見栄えがしない、とされて単なるつなぎに堕していた関節技を、本当に効く、殺しの技として復権させたのは、間違いなくUWFの功績でした。
それがこの試合にも表れています。


http://sports.yahoo.co.jp/column/detail/201702050003-spnavi

オカダがみのるのヒザ攻めを耐えIWGP王座死守

謎の覆面男タイガーマスクWとの夢対決を熱望

 5日の新日本プロレス「THE NEW BEGINNING in SAPPORO〜復活!雪の札幌決戦〜」北海道・北海道立総合体育センター 北海きたえーる大会では、4大タイトルマッチなどが行われ、超満員となる5545人を動員した。
 メインイベントのIWGPヘビー級選手権試合では、40分を超える死闘の末、王者オカダ・カズチカが鈴木軍大将・鈴木みのるを退け3度目の防衛に成功。試合後は「戦いたい相手」として、正体不明の謎のマスクマン・タイガーマスクWの名前を挙げ、一騎打ちを熱望した。

この日は、2年余りNOAHに出向していた鈴木軍が、提携解消により新日マットに復帰してきて、本格的抗争を開始する試合でありました。結果としては、NOAHでは瞬く間に全ベルトを奪取した鈴木軍が、新日ではひとつも取れなかったため「NOAHより新日が格上」という序列を見せる効果を狙っていることがわかりましたが、まぁそれはこの業界では常套手段だからとやかく言うことではありません。


オカダは、1.4東京ドームではケニー・オメガを相手に40分を超える激闘を演じ、世界的に高い評価を得ました。目まぐるしい攻防がひとときの休みもなく続く、まさに現代プロレスのひとつの到達点といえる試合でした。


しかしおとといの試合では、鈴木の寝技・関節技テクニックが存分に発揮され、1.4とはうってかわった、正反対ともいえる展開となりました。
鈴木は前日のタイトル調印式でオカダを急襲し、ヒザにダメージを与えるという伏線を張り、当日の試合でもひたすらオカダのヒザを攻撃し続けます。
序盤の場外乱闘における、カメラマンの三脚まで使った凶器攻撃は、さすがに「世界一性格の悪い男」ギミックにふさわしいクレイジーさでしたが、場外フェンスを用いたクロス・ヒールホールドも、悪役としてのアクの強さと、関節技の名人というテクニカルさを両立させる、うまい攻撃でした。そしてリングに戻ってからは、ひたすら寝技。ヒザ十字固め、アキレス腱固め、ヒールホールド、クロスヒールホールドとU殺法のフルコースです。逃れたオカダがツームストン・パイルドライバーを狙うと、鈴木は身体を反転させてビクトル投げからまたヒザへの関節技攻撃。この辺のテクニックも、UWFがなければ日の目を見なかったであろう技術です。


気位が高いキャラのオカダに、関節技でギブアップをさせることはないだろう、と予想するようなすれっからしのプオタも、セコンドの外道がタオルを持ってエプロンサイドに上がってくるのを見て「その手があったか」とうならされました。「オカダのヒザが本当に壊れるかもしれない」という危機感を、観客に持たせる演出と、鈴木のテクニックがしっかり結びつき、説得力を生み出しています。フィニッシュに至る流れも、鈴木が何度も出してきたパイルドライバーの切り返しを、オカダがさらに切り返すという、それまでの伏線を活かした展開になっていたのが印象的でした。


前田日明高田延彦が新日マットに上がっていた時代は、これらのテクニックがまだ新日式のプロレスとうまく結びついておらず、ギクシャクした試合ばかりが続いておりましたが、それから30年を経て、UWFのテクニックがプロレス本来の面白さの中にしっかり組み込まれた、これもひとつの完成形といえる試合になったといえるでしょう。


(問題は、オカダの名勝負はいつも相手のテクニックに頼る部分が大きすぎることなんだよなぁ……)



鈴木みのるvsオカダ・カズチカの試合は、ある意味『1984年のUWF』に対するアンサーファイトのようにも見えました。プロレスから生まれた活字があり、そこからまたプロレスが生まれる。このサイクルこそがプロレスの面白さというものです。だからプロレスはやめられないんだよ!

ワッシュ流カレー2017

ネット上には数多くのレシピ記事があり、いかなる料理にも賛否両論うず巻くのが定例であります。もっともシンプルな料理であるビーフステーキにも焼き方で数多くの宗派が存在し、それぞれのドグマをぶつけあう悲しいマラソンを続けております。あとすき焼きとかも鬼門です。

めしにしましょう(2) (イブニングKC)

めしにしましょう(2) (イブニングKC)

小林銅蟲の『めしにしましょう』でも、すき焼きがいかにめんどくさい人々をひきつけるかという不都合な真実から目をそむけずに描かれていました。
小林氏のブログ「パル」への反応を見ても、ああいった肉料理をネットで扱うことにより、いかにめんどくさい人々が集まってくるか如実にわかります。お得意の低温調理はとくに先鋭的な反応を引き起こすことで知られています。(ちなみにワスはこんな高いもの持ってません)



というわけでカレーです。



おそらくカレーぐらい宗教論争を呼び起こす料理もほかにないでありましょう。インド風にするか欧風にするか和風にするか、肉はチキンかビーフか、サラサラかトロトロか、それぞれの教義を信奉する使徒たちがセントラルドグマに集い、ほとばしる熱いパトスで思い出を裏切り続けているのが21世紀の地獄インターネットなのでありますですよ。


最近はタモリカレーの覇権もすっかり確立していますが、2時間煮込んで各種のスパイスやヨーグルトやチーズを駆使するあのレシピですら「簡単」と称されるこの阿修羅地獄。そこに、フライパンひとつで、台所に立ってから食卓まで1時間でできるこのレシピをぶち込むというのは、風車の巨人に立ち向かう蟷螂の斧というそしりを免れないでありましょう。でもやるんだよ!

ワッシュ流ポークカレーの材料(4人分)

  • 玉ねぎ:4個
  • 豚バラ肉(脂身の多いところ):300g
  • カレー粉:大さじ2

S&B 業務用カレー粉 400g

S&B 業務用カレー粉 400g

  • 小麦粉:大さじ2
  • バターまたはマーガリン:大さじ1
  • おろしにんにく/おろししょうが:大さじ1ずつ(チューブのやつでよい)
  • 炒め玉ねぎペースト/マンゴーチャツネ/フォン・ド・ヴォーペースト:各1パック

ハウス食品のカレーパートナーシリーズは、いつだって強い味方である。なお省略してもできることはできる)

  • 砂糖と塩:大さじ1ずつ

作り方

  • 玉ねぎをできるだけ薄くスライスし、大きめの耐熱ボウルに入れて塩で揉み、電子レンジで12分ほど加熱する
  • その間に豚肉から脂身を切り取り、中火のフライパンで焼いて油を出しておく
  • 油がたっぷり出たフライパンに、レンジから取り出してしんなりした玉ねぎをぶち込み、にんにくとしょうが、そして大さじ1ほどの砂糖を加える
  • 15分ほどかき混ぜながら炒め(ヘラやお玉より菜箸のほうがやりやすいぞ!)、あめ色になるのを待つ
  • 豚肉を加え、あめ色玉ねぎをまぶすように炒める
  • 火を弱め、バターと小麦粉、カレー粉を入れてよく混ぜる
  • カップほど水を加え、カレーパートナー3種を入れる
  • よく混ぜて、とろみがつくまで煮る


ヨーグルトやトマトを加えてもいいけど、今回は玉ねぎと豚肉の旨みを味わうためのカレーにしました。前日から肉をスパイスに漬けこんでおく、とか肉と香味野菜を2時間ほど煮込んだスープを濾す、とかそういう手間はかけなくてもいいです。ぜひ一度おためしください。

おまけ:ワッシュ流大根とまいたけの混ぜご飯

  • 大根
  • 油揚げ
  • まいたけ
  • めんつゆ
  • バター
  • ご飯

手順

  • 大根を薄切りのいちょう切りにして、刻んだ油揚げ、ほぐしたまいたけといっしょにバターで炒め、めんつゆで濃いめに味をつける
  • 炊きたてのご飯にぶちこみ、よく混ぜる


これだけで立派な一食になるので、最近はよく作っています。この季節なら大根の葉っぱを加えても乙な味です。こちらも超簡単なのでおためしください。

コマイぬよみ芝居「あの日からのみちのく怪談」

2016年7月30日(土)に、東松島市の蔵しっくパークにて初演された、コマイぬよみ芝居「あの日からのみちのく怪談」のもようが、劇団コマイぬの芝原弘さんの手によりYouTubeにアップされましたので、こちらでも紹介いたします。

  • コマイぬよみ芝居「あの日からのみちのく怪談」


https://image.honto.jp/item/1/265/2798/5537/27985537_1.png
https://honto.jp/netstore/pd-book_27985537.html


東北怪談同盟編『渚にて あの日からの〈みちのく怪談〉』より、11篇を選んで朗読劇に仕立てた演目です。ぼくが原作を書いた「水辺のふたり」は全篇会話体だったので、これだけ朗読劇でなくふたり芝居に仕立てられており、黒木あるじ・小田イ輔・根多加良らほかの執筆陣から「お前だけズルい」「狙っていたんだろう」「だいたいお前の顔が昔から気に食わない」「毎日カップ焼きそばばかり喰ってるからこんな話しか書けねえんだよ」などとつるし上げを食いましたが、まったくの偶然です。動画の32分あたりから、10分ぐらいがぼく原作の話になっております。女優陣の好演により、原作者が観てもホロリとくる仕上がりになりました。ぜひご覧ください。


なお、今年の初夏にも東京や宮城で上演予定とのことです。どうぞよろしく。

必殺・炎上固め

ぼくはジブリ作品を一度も映画館で観たことがない。ソフトを買ったりレンタルしたりしたこともないので、テレビで放送したときにしか観ない。それもちゃんと観ると決めているわけでもない。要はそんなに観てないということだ。

『木根さんの1人でキネマ』でも、主人公の木根さんがジブリを観てないという話があったが、ある種の人間にとって、ジブリ作品というのはどこか肌に合わないものだ。とくに『耳をすませば』は、ぼくは一度も通して観たことがない。女子中学生が、図書館で同じ本を借りている男の子のことを好きになるが、その子はイタリアにヴァイオリン職人の修業に行くことが決まっていて……という大枠と、オチぐらいは知っているが、何というか、ぼくが観るための映画ではないということだ。なので、テレビで放送されるたびに「死にたくなる」などの反応を起こす層に対しては、だったらテレビ観ないでコマンドーでも実況してればいいのに、という気持ちがあったが、まぁそういう気分を味わうために観る映画なのだろう。ラース・フォン・トリアーとかダーレン・アロノフスキーとかだいたいそんな感じだ。


なのでぼくは知らなかったのだが、劇中にこんな問題があったそうな。『耳をすませば』ファンサイトより。
●「耳をすませば」FAQ ●「耳をすませば」FAQ

Q:教室で杉村が夕子に告白の返事を断わっておくと言った後に、男子生徒が「オイ、ゆうべのサスケ見たか?すっげ〜んだ!俺 、感動した!」という台詞を言っていますが、この「サスケ」とは一体何ですか?

A:サスケについては、ストーリーの展開には直接関わりの深い内容ではないためとくに取り上げませんでしたが、セリフ的には少し気になりますよね。これがどのような説があるのかについて調べてみました。

白土三平の忍者漫画説。アニメ版も制作されていたようなので、何らかの形でこれが放映されたという想定です。映画制作スタッフの中に白土三平のファンがいれば、かなり説得力のある説になります。

○時代劇ドラマ説。ズバリ「猿飛佐助」の省略形ですね。

○「みちのくプロレス」のグレートサスケ説。これも結構納得させられる説だと思います。ただ、みちのくプロレスは東京で見られるのかどうか。(^^;

忍者戦隊カクレンジャー説。忍者戦隊カクレンジャーという、ゴレンジャー系の番組に、サスケという登場人物がいるそうです。世代的には「耳をすませば」の世界に近く、後のクラスメイトの反応から推定すると、これも有力な説かもしれません。

そんな問題があったのか……。なお、若い視聴者には『NARUTO』の登場人物を思い浮かべる人もいるようだが、『耳をすませば』の公開が1995年で『NARUTO』の連載開始は1999年なので、これはありえない。また、TBSのアスレチック番組『SASUKE』も初回放送は1997年なので、これもありえない。白土三平や時代劇ドラマは中学生の話題としては不自然だし、『カクレンジャー』にはたしかにニンジャレッドことサスケ(小川輝晃)という人物が出るものの、これも中学生の話題にしては不自然である。


ということはグレート・サスケであろう、と結論が導き出されるものの、ジブリアニメとプロレスというのも、何とも食い合わせが悪いというか、すわりの悪さを感じるマッチングである。


しかし!



はてなプロレスクラスタでも重鎮であり、その情念あふれる文体で現代のターザン山本といわれている(嘘です)id:Derus氏(@pencroft)が、10年前にその結論を出していたのであった!


宮崎駿とプロレス - 挑戦者ストロング 宮崎駿とプロレス - 挑戦者ストロング
宮崎駿による絵コンテを紐解いて、そこに

(ト書き) となりのA格闘技狂が何かはなしている
(台詞) A オイ ゆうべのサスケみたか すげえんだ オレは感動した
(台詞) B ガハハハ

という一節があることを、突き止めていたのであった。そこから結論を導く文章もまた最高である。

これでもう間違いあるまい。

耳をすませば」は監督こそ近藤喜文ではあるものの、これはディレクションのみと考えてよかろう。宮崎駿はクレジット上で脚本・絵コンテ・製作プロデューサーとして表記されており、やはりこれはほぼ宮崎駿支配下で作られた映画と言うべきだ。

つまり世界に名だたるアニメーション監督である宮崎駿は1994年4月のある深夜、テレビ朝日で放送された「ワールドプロレスリング」を観ていたのだ。そしてサスケがライガーにウラカン・ラナで勝つのを観て炎上したのだ。決勝でワイルド・ペガサスに雪崩式パワーボムを喰らって負けたサスケを観て興奮したのだ。メチャ感動しておったのだ。その記憶が、この男子中学生Aの台詞に結実されたのに間違いないのだ。そうに違いないのだ(ドンッ!)。

より細かく考証するなら、「ワールドプロレスリング」の放送は土曜深夜であり、翌日は日曜日で学校は休みなのだが、そこまで気にする必要はなかろう。たしかにあのときのサスケは神がかっていた(近年のサスケは別の意味で神がかっているが……)。プロレスが変わっていく手応えを、ファンはたしかに感じさせられたのだ、サスケのあの飛翔に。


ところで。


「(宮崎監督が)サスケがライガーにウラカン・ラナで勝つのを見て炎上したのだ」という一文を読んで、意味のわからない向きも多いであろう。1994年当時、インターネットはまだ一般に普及しておらず、ネット炎上という概念はまだ影も形もなかった。ネット炎上という言葉が生まれるのは21世紀に入ってからだし、そもそも宮崎駿は今も昔もブログやSNSをやらないので、「炎上」したことはないはずだ。


現代のネット民にとって「炎上」といえば、ブログやツイッターに批判が殺到して収拾がつかなくなることを指す。それ以外には物理的に燃えることを指す意味しかないであろう。

ウェブ炎上―ネット群集の暴走と可能性 (ちくま新書)

ウェブ炎上―ネット群集の暴走と可能性 (ちくま新書)

炎上―1974年富士・史上最大のレース事故

炎上―1974年富士・史上最大のレース事故

この用法はもう10年以上も使われているが、それ以前、20世紀末には別の「炎上」があったことを、記憶する民は少なかろう。


「金権編集長」ザンゲ録 (宝島SUGOI文庫)

「金権編集長」ザンゲ録 (宝島SUGOI文庫)


1987年から96年にかけ「週刊プロレス」の編集長をつとめ、活字プロレスの隆盛を担ったターザン山本。非常に毀誉褒貶の多い人物であり、その人間性には否定的な見解を持つ人も少なくないが、そのラディカルな姿勢とセンスは、ある時代を大きくリードしていた。ファンが遠方へ観戦旅行に行くことを「密航」と表現するなど、当時まだプロレスファンが持っていた日陰者意識をくすぐる言語感覚は唯一無二のものであった。当時のぼくは「週刊ゴング」派で、ターザンにはむしろ反感を持っていたが、それでもおおいに影響を受けたことは否定できない。



そのターザンが一時期よく使っていた言葉が「炎上」であった。



これは現代のネット用語とは違い、形而上的な、人間の内面にはたらくある種の作用を指す言葉である。


こう書くと何やらコ難しそうだが、何のことはない。要するに「興奮」である。「萌え」と言ってもいい。激しい戦いを観た結果、そういった感情の昂りが最高潮に達し、抑えきれない状態になるのが「炎上」だ。
プロレスとは人間と人間の戦いであり、そこで表現されるのは喜怒哀楽あらゆる種類のパッションである。人生のすべてがある、といっても過言ではない。観客はそこに己の人生を重ね合わせる。『耳をすませば』が公開された1995年といえば『新世紀エヴァンゲリオン』が放送された年だが、シンクロ率が限度を超えれば人間というのはおかしくなるものだ。シンジ君がLCLの中に溶けてしまったように、戦うレスラーに自分を重ね合わせ過ぎると、観客は自分を完全にレスラーと同一化してしまう。
その結果、宮崎駿ライガーに勝ったサスケの歓喜を自分のこととして受け止め、ワイルド・ペガサスことクリス・ベノワの雪崩式パワーボムという荒技により、強烈にマットに叩きつけられた凄まじい衝撃を、己の肉体に感じたのであろう。こうなるともう自他の区別はどこにもない。俺がサスケなんだよ! サスケは俺なんだよオオオオォォォォォ! という状態に陥るのである。こういった、客観的には明らかに間違っている論理を、すべて感情の昂りにまかせて押し通す。それが旧世紀における「炎上」なのであった。

セクハラの本質

インフルエンザと診断されたため自宅に引きこもっていますが、こんなニュースを目にしては黙っておれねえんです。


男性警官:女性署員にプロレス技 滋賀県警、セクハラ調査 - 毎日新聞 男性警官:女性署員にプロレス技 滋賀県警、セクハラ調査 - 毎日新聞

 滋賀県警長浜署の男性警官が、昨年11月に開かれた署内の懇親会で、20代の女性署員2人にプロレス技をかけていたことが県警への取材でわかった。複数の男性署員が携帯電話で写真を撮り、一部の参加者間で共有していたという。県警はセクハラなどの可能性があるとみて調査しており、処分を検討する。

 県警監察官室によると、懇親会は人事異動に合わせ、11月22日の午後7時ごろから、地域課の署員25人が参加して長浜市内の飲食店で開いた。警部以上の幹部はいなかった。

 余興として男性警官がプロレス技を複数の同僚にかけ始め、女性2人にも「つり天井固め(ロメロ・スペシャル)」と呼ばれる技をかけた。手足をつかんであおむけに体を持ち上げ、足を開かせてえびぞりにさせる技で、女性1人はスカートを履いていた。

 県警監察官室は「調査を進めており、結果を踏まえ厳正に対処する」と話している。【大原一城】

このニュースは朝日・読売・産経など各新聞社のサイトでも報じられ、産経では男性が女性に吊り天井固めをかけるイラストまで掲載していますが、毎日新聞だけが「ロメロ・スペシャル」という英語名も併記していたのでここで紹介しました。


ロメロ・スペシャルはメキシコの覆面レスラー、ラウル・ロメロが開発した(リト・ロメロ説もある)技で、メキシコ流の複合関節技、ジャベ(かつては「メキシカン・ストレッチ」と総称されていた)の代表格です。現地ではタパティアと呼ばれ、日本でもポピュラーな技であります。使い手としては獣神サンダー・ライガーが有名です。

(背が低く手足が短いライガーの体格は、この技に最適である)


で、この技について重要なのが、「受け手の協力がなければ成立しない」点であります。


そもそも受け手の全体重を手足だけで支えるという技の特性上、ヘビー級で使うことは難しく、男子より体重の軽い女子のほうでよく使われています。

  • Natalya - Romero Special


WWEディーヴァ、ナタリアことナッティ・ナイドハートによるロメロ・スペシャル。ちなみに彼女はジム・ナイドハートの娘で、“ヒットマンブレット・ハートの姪にあたる)


この動画を見てもわかるように、「足をかけられてもほどかない」「腕をおとなしく後ろにやる」「持ち上げられても暴れない」という、受け手の協力が必要なわけです。


(※なお、2014年に『水曜日のダウンタウン』で「ロメロスペシャル相手の協力なくして成立しない説」が検証され、ライガーサバンナ八木ザブングル松尾カラテカ矢部にロメロスペシャルをかけて「協力しなくても成功する」と結論づけられたが、「オラ八木ィ!」とすごむ山田のおじさんがいかに怖いかという重要なファクターを無視しているため、本稿ではこの結論を支持しない)


ということは、長浜署の懇親会でロメロ・スペシャルをかけられた女性警察官にしても「本気で抵抗していない」「自分から進んで技を受けた」といえるわけです。そこを突いて「同意があった」「狭義の強制性はなかった」とか言い出すやつらがいるだろうなぁ。


でもここにこそ「セクハラ」「パワハラ」の本質があるわけで、単なる暴力とハラスメント行為の差というのは、被害者が「逆らう」という選択肢を社会的に奪われている、という一点なわけですよ。受け手の側が空気を読んでかけられたのだとしたら、そういう空気にこそ問題があるんです。何でもかんでもハラスメントとはいかがなものか、というようなことを言う人が多い昨今ではありますが、そこの問題をきっちり認識してしゃべってほしいものですね。



ちなみに、ロメロ・スペシャルの考案者とされるラウル・ロメロは昭和31年に初来日していますが、テレビ中継もなくマスコミとのパイプも弱かった旧・国際プロレス団木村政彦が主宰)のリングに上がっていたため、ロメロ・スペシャルがどこで初公開されどのような反響を呼んだのか、についてははっきりした記録が残っていません。「吊り天井固め」という和名がいつ命名されたのか、も、ぼくが調べた限りでは判然としませんでした。かつてはプロレス技の和名もメディアによって違いがあり、今でこそ「原爆固め」が定着しているジャーマン・スープレックス・ホールドにしても、初期には「天井づり」という表記もあったようです。吊り天井固めと似た言葉だけど、こちらは飲み会の余興としては使えないなぁ。

(いまのプロレス界では、男子なら大日本プロレス関本大介、女子ならセンダイガールズプロレスリング橋本千紘が、ナンバーワンの使い手と目されている)

1984年のUWF

プロレスとは何か、という問いに答えが出ることはないだろうが、現代においてそれを考える人間として絶対に外せない資料が、柳澤健による一連の著作である。

完本 1976年のアントニオ猪木 (文春文庫)

完本 1976年のアントニオ猪木 (文春文庫)

1993年の女子プロレス (双葉文庫)

1993年の女子プロレス (双葉文庫)

1964年のジャイアント馬場

1964年のジャイアント馬場

最近、プロレス初心者の友人が「ストロングスタイルとは何なのか、よくわからない」と悩んでいるが、これは『1976年のアントニオ猪木』と『1964年のジャイアント馬場』を読めばよくわかる。つまりストロングスタイルとは、アントニオ猪木ジャイアント馬場に対するアンチテーゼとしてぶち上げた思想なのである。



そしてこのたび、「Number」に好評連載されていた新作『1984年のUWF』が、早くも書籍化!

1984年のUWF

1984年のUWF


id:gryphonさんによる非公式(とはいえ作者も絶賛している)プロモーションビデオがこちら。


アントニオ猪木の思想「ストロングスタイル」をさらに先鋭化させ、その後の格闘技ブームに先鞭をつけた格闘プロレス集団「UWF」。新日本プロレスの内紛によって生まれた鬼子が、いかに成長していったのか。プロレスという思想を理解するためには、こちらも欠かせない基礎資料となるであろう。