東西ミステリーベスト100

週刊文春臨時増刊 東西ミステリー ベスト100 2013年 1/4号 [雑誌]

週刊文春臨時増刊 東西ミステリー ベスト100 2013年 1/4号 [雑誌]

週刊文春臨時増刊「東西ミステリーベスト100」を買ってきたッス。
東西ミステリーベスト100 (文春文庫)

東西ミステリーベスト100 (文春文庫)

1985年の同企画から四半世紀を経て、新たに編まれたブックガイド。相変わらず古典が強さを見せており、国内1位・2位は旧版と同じく横溝正史の『獄門島』に中井英夫の『虚無への供物』。
獄門島 (角川文庫)

獄門島 (角川文庫)

新装版 虚無への供物(上) (講談社文庫)

新装版 虚無への供物(上) (講談社文庫)

25年経っても、上位はあまり変動していません。ミステリファンは保守的なんですね。


ただし、40位以下はかなり変動しています。この本に収録されている、大森望×大矢博子×杉江松恋×千街晶之の座談会でも言われていますが、旧版の出た1985年当時はハードボイルド/冒険小説がブームだったのが、今回は、新本格ムーヴメントを経たことによってミステリ業界の趨勢ががらりと変わったことがよくわかります。前回は4作もランクインしていた北方謙三が、今回は1本も入っていないし(北方先生が時代小説中心にシフトしたこともあるけど)、大藪春彦も入ってません。



※1985年版ベスト100はこちらを参照。
東西ミステリーベスト100 - Wikipedia


そのかわり、90年代後半から再評価の機運が高まった、山田風太郎作品が4本もランクインしています。


海外は、国内にも増して古典が強いのですが、長年にわたって1位の座に君臨していた『Yの悲劇』を、ついに『そして誰もいなくなった』が抜くという歴史的大逆転を見せました。

Yの悲劇 (角川文庫 ク 19-2)

Yの悲劇 (角川文庫 ク 19-2)

こちらも冒険小説は軒並みダウンしており、80年代にブームになった女性作家の女性探偵もの(サラ・パレツキーウォシャウスキーものや、スー・グラフトンのキンジー・ミルホーンもの)が、今回はまったくランクインしていません。フェミニストが怒りそうな結果になっています。

アリバイのA (ハヤカワ・ミステリ文庫)

アリバイのA (ハヤカワ・ミステリ文庫)


まぁ、業界に明るい人ならいろいろ言いたいこともあるのかもしれませんが、ぼくはこういうガイドブック形式の本が大好きなので、当分はこれで楽しめそうです。

ワッシュの国内ミステリベストテン

  1. 泡坂妻夫『亜愛一郎の狼狽』
  2. 横溝正史犬神家の一族
  3. 鮎川哲也「赤い密室」
  4. 島田荘司『斜め屋敷の犯罪』
  5. 馳星周『夜光虫』
  6. 高木彬光『人形はなぜ殺される』
  7. 大藪春彦蘇える金狼
  8. 京極夏彦狂骨の夢
  9. 竹本健治匣の中の失楽
  10. 坂口安吾『不連続殺人事件』

これね、1位はもう絶対不動なんですよ。初めて読んだのはたしか高校のときだったと思いますが、軽妙で人を食ったユーモア、奇想天外な論理、どれをとってもぼくの人格形成に多大な影響を与えています。「赤い密室」は大人になってから読みましたが、密室を構成する論理の、一部の隙もない必然性に驚かされました。『斜め屋敷』は、『占星術殺人事件』でもいいんですが御手洗潔キチガイ度でこっちにしました。『狂骨』は、『絡新婦の理』のほうが完成度は高いと思うんですが、ぼくは「複数の人物が同じものを見ているが、彼らにとってはまったく意味が異なっている」というシチュエーションが大好きなので。『不連続殺人事件』は、人と日本文学の話をするときに「いやあぼくは安吾が好きでしてねえ」といつも言っているぼくですが、実は安吾の作品でこれがいちばん好きなのです。

ワッシュの海外ミステリベストテン

  1. エラリー・クイーン『エジプト十字架の謎』
  2. ギャビン・ライアル『深夜プラス1』
  3. トマス・ハリスレッド・ドラゴン
  4. イリアムアイリッシュ『幻の女』
  5. エドガー・アラン・ポー「モルグ街の殺人」
  6. カーター・ディクスン『ユダの窓』
  7. アイザック・アシモフ黒後家蜘蛛の会
  8. ローレンス・ブロック『八百万の死にざま』
  9. S.S.ヴァン・ダイン『僧正殺人事件』
  10. ロス・マクドナルド『さむけ』

こちらも1位は不動。錯綜した謎が、たった一つの手がかりで鮮やかに解かれるカタルシスは比類ありません。『深夜プラス1』はモーゼルシトロエンという小道具、ガンマンの誇り、どれをとってもしびれる。『レッド・ドラゴン』は『羊たちの沈黙』とどっちでもいいんだけど、ダラハイドが絵を○○する場面が印象的なこちらを。『ユダの窓』は、日本家屋に住んでいる人は悔しがること必至のトリックが素敵。ちなみに現代の住宅であのトリックを再現するのは難しいです。