儚い羊たちの祝宴

米澤穂信の『儚い羊たちの祝宴』を読んだッス。

儚い羊たちの祝宴 (新潮文庫)

儚い羊たちの祝宴 (新潮文庫)

氷菓 限定版 第1巻 [Blu-ray]

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作者はテレビアニメ『氷菓』の原作者であり、そちらは萌えファンに人気だそうですが、『儚い羊たちの祝宴』はミステリファン向けの小ネタが多数仕込まれており、全体のトーンも悪意に満ちたダークさがあって、ぼく向きの小説だと思いましたね。


この本には「身内に不幸がありまして」「北の館の罪人」「山荘秘聞」「玉野五十鈴の誉れ」そしてシメに「儚い羊たちの晩餐」の五短篇が収録されています。それぞれ、上流階級に関係のある女性(良家の娘や使用人)の視点から描かれていて、お互いに内容のつながりはありませんが、どの作品にもお嬢様の集う読書会「バベルの会」が登場し、それらの事件をつないでいるという構成です。


五篇のうち四篇は、ラストで驚かせるどんでん返しタイプの仕掛けがあり、ラストの「―晩餐」はいくつもの小ネタによって彩られています。主人公の読む本がウィリアム・アイリッシュの「爪」にロード・ダンセイニの「二壜のソース」、ロアルド・ダールの「豚」、そして父親に勧める食材は「アミルスタン羊」というから徹底しています。

世界短編傑作集 5 (創元推理文庫 100-5)

世界短編傑作集 5 (創元推理文庫 100-5)

世界短編傑作集 3 (創元推理文庫 100-3)

世界短編傑作集 3 (創元推理文庫 100-3)

キス・キス (異色作家短編集)

キス・キス (異色作家短編集)

特別料理 (異色作家短篇集)

特別料理 (異色作家短篇集)


ただしこの本、時代設定を曖昧にしてあって、封建的な旧家を描くなどかなり古風なムードを出しているのですが、出てくるミステリ作品の出版・邦訳時期から時代を特定するという読み方も可能です。


戦前のようにも読めましたが、巻頭の「身内に不幸がありまして」では横溝正史の『夜歩く』が出てくるので少なくとも昭和24年以後であることがわかり、のちにエラリー・クイーンの『十日間の不思議』が出てくるので、これが邦訳された昭和34年以後であることがわかります。

夜歩く (角川文庫)

夜歩く (角川文庫)

十日間の不思議 (ハヤカワ・ミステリ文庫 2-1)

十日間の不思議 (ハヤカワ・ミステリ文庫 2-1)

ラストを飾る表題作には、スタンリイ・エリンの『特別料理』が引用されているので、この作品の時代設定は『特別料理』が邦訳された昭和36年より以後だということがわかりますね。


こんなふうに考察する楽しみも味わえる、なかなか味わい深い本でありました。