姿を見せた…大いなる標的

昨年の大晦日井岡一翔vs田中恒成WBO世界スーパーフライ級タイトルマッチが開催されました。4階級制覇王者の井岡が、無敗で3階級を制覇し4階級目を狙う田中を迎え撃つ、という過去の日本ボクシング界に例のないほど華々しい実績を持つ両雄の激突でありました。

内外の注目を集めたこの試合は、田中優勢と見るファンも多かったのですが、下馬評を覆し井岡の圧勝で終わります。前後の出入りとハンドスピードの速い田中は積極果敢な攻撃を見せますが、井岡はその多彩な攻撃を読み切り、左のカウンターで2度ダウンを奪い、それでもスピードの落ちない田中を巧みにいなします。最後は、挑発に乗って打ってきた田中のワンツーを見切っての左フック一閃。動きの止まった田中を染谷レフェリーが抱き止め、TKOにより試合終了。両者のスピードとテクニック、クリーンなファイトとスポーツマンシップ、レフェリーストップのタイミングに至るまでボクシングの理想的な試合でありました。

井岡は戦前、タイトル統一のビッグマッチを目指す自分にはメリットのない試合だと語っていましたが、実際のところこの試合の注目度は高く、しかもやや劣勢とみなされていた中で、これまで以上に素晴らしいテクニックとソリッドなパンチ力を見せた井岡の評価は急上昇。米「リング」誌の選ぶPFPランキングで10位に入ることになります。井岡には大きなメリットのある試合だったことが証明され、また敗れた田中もファンに好印象を残したのでした。

 

そんな、年間ベストバウト級の試合だったのですが、後から思わぬ波紋を呼ぶことになります。

井岡一翔、「タトゥー」で処分へ JBCは「ルール違反。対応検討中」 | デイリー新潮

 

デイリー新潮が「井岡の左腕に入っているタトゥーはルール違反」と報じ、多くの人がその是非を云々する事態になったのです。

新庄剛志氏が井岡の“タトゥー問題”をバッサリ「なんだこの日本の古臭い考え」「アップデートして行こうぜ」:中日スポーツ・東京中日スポーツ

武井壮が井岡の“タトゥー問題”に持論 「オレは基本まず事前にあるルールは守るべき派」:中日スポーツ・東京中日スポーツ

平本蓮が井岡一翔〝タトゥー問題〟に「JBCマジでくだらない」 アンチには「くたばれ」 | 東スポのRIZINに関するニュースを掲載

井上尚弥「ルールを守らなければ」井岡タトゥー問題 - ボクシング : 日刊スポーツ

特に、実力も品性も高い井上尚弥の意見はボクシングファンの間でも影響力が強く、彼に引っ張られて「ルールはルールだよね」という人も少なくないのですが、だがみんなちょっと待ってほしい。

別にルールを破ってもいいなんて言うつもりはないけど、そもそもJBCのルールには何と書いてあり、その意味は何なのか。

 

https://www.jbc.or.jp/info/jbc_rulebook2016.pdf

日本ボクシングコミッションの公式ルールブック、第五章「試合の管理」第四節「試合出場ボクサー」第86条には、こうあります。

第86条(欠格事由) 次の各号に該当するボクサーは、試合に出場することができない。

1 試合進行の妨げとなるおそれのある髪型(長髪、ヒゲ等を含む)の者。

2 入れ墨など観客に不快の念を与える風体の者。

3 急性・感染性疾患(感冒、へルペス、流行性結膜炎など)に羅患している者。

4 オーバートレーニング、過度の減量などにより健康状態が不良である者。

5 コミッションドクターが視力等に支障があると診断した者。

6 コミッションドクターによる診断の結果にもとづくコミッションドクターの勧告に応じない者。

7 その他コミッションドクターが試合に不適格であると認定した者。

8 選手が自立で計量器に臨めない者。

9 その他試合出場に相応しくない者。

今回の、井岡の問題は2の項にあたります。

 

ほかの項を見れば、この規定の示すところがわかると思いますが、いかがですか。これは選手よりむしろ試合を管理するコミッションが守らなければいけないルールで、事前にチェックすべきものです。

もし井岡に処分をくだすというのであれば、彼がリングに上がるのを認めたコミッションの責任も問われなければいけないんじゃないですかね。

井岡がタトゥーを入れてるのは前から分かりきってるんだから、バンデージをチェックするときなり、入場前の呼び出しにきたときなり、いつでも「ファンデーション薄くない?」と注意することはできたはずですよ。

どうせ、「まいいか」と思って上げたらテレビに苦情が来て慌てて対応した、とかでしょ。この業界、なあなあの場当たり的対応が多いから。

 

「入れ墨など」とはいうものの、その他の「観客に不快の念を与える風体」というのは例えば何のことなのか、ちゃんと説明できる人いるんですかね?

外国人ボクサーはタトゥーを入れていても不問なんだけど、おそらく「外国人は生活習慣が異なり、刺青が反社会的で不快なものとは捉えられていないから」ということでしょう。でもそれなら井岡のタトゥーだって同じのはずです。観客が不快に思えばダメ、というなら「あいつの顔が不快だ」というクレームが来たらどう対応するのか。そういう曖昧な内容の規定を、恣意的に運用していることは「ルールはルール」と単純化するより先に批判されて然るべきなんじゃないですかね。

 

井岡一翔はその実力のみならず、波乱のキャリアでボクシング界に一石を投じてきたボクサーでありますが、今回の件も大きな一石になりそうです。

 

あと、井岡はライトフライ級のときローマン・ゴンサレスから逃げたのどうのこうのと言う人はまだいるけど、世界タイトルマッチは大きなお金の絡むビジネスなんだから、条件が折り合わず試合が流れるのはよくあることです。あの時の実力から言っても、井岡の勝ち目は充分にありました。今は井岡31歳、ロマゴン33歳。お互いに敗北も経験し、這い上がってきてまた対戦のチャンスが近づいています。

井岡、次戦は?“ロマゴン”とエストラーダを中心としたスーパーフライ級世界戦線― スポニチ Sponichi Annex 格闘技

3月に、WBAスーパー王者のロマゴンと、WBC王者フアン・フランシスコ・エストラーダが統一戦を行います。エストラーダは、井岡が10位に入った「リング」誌PFP十傑で8位に入る強豪。しかしロマゴンもこの階級に馴染んで本領を発揮しており、実力的には五分五分といえるでしょう。

この試合の勝者に、井岡は対戦を希望しています。

IBF王者ジェルウィン・アンカハスもロマゴンとの対戦を熱望しており、ベルト統一に向けたボクサーたちの思惑は混沌としていますが、この強豪たちのファイトからは当分目が離せません。

つまらん文句でケチつけられるぐらいならラスベガスでもどこでも行ってバーンとやってくれ!

WOWOWで見たほうが実況のクオリティ高いしね。

エキサイトマッチ~世界プロボクシング|スポーツ | WOWOWオンライン