もし夢枕獏が桃太郎を書いたら

もしも矢沢永吉が『桃太郎』を朗読したら

もしも矢沢永吉が『桃太郎』を朗読したら

『ナナオクプリーズ』の桃太郎ネタも本になったことだし、このネタもそろそろ遠慮したほうがいいのかもしれないけど、そんなこたぁよう、おいらの知ったことじゃぁねぇのさ。


過去のシリーズ一覧はここだぜ。
もし大藪春彦が桃太郎を書いたら - 男の魂に火をつけろ! もし大藪春彦が桃太郎を書いたら - 男の魂に火をつけろ!
もし平山夢明が桃太郎を書いたら - 男の魂に火をつけろ! もし平山夢明が桃太郎を書いたら - 男の魂に火をつけろ!
もし夢野久作が桃太郎を書いたら - 男の魂に火をつけろ! もし夢野久作が桃太郎を書いたら - 男の魂に火をつけろ!
もし横溝正史が桃太郎を書いたら - 男の魂に火をつけろ! もし横溝正史が桃太郎を書いたら - 男の魂に火をつけろ!
もし小池一夫が桃太郎を書いたら - 男の魂に火をつけろ! もし小池一夫が桃太郎を書いたら - 男の魂に火をつけろ!
もし桃太郎が水曜どうでしょうだったら - 男の魂に火をつけろ! もし桃太郎が水曜どうでしょうだったら - 男の魂に火をつけろ!
もし桃太郎がなんJ民だらけだったら - 男の魂に火をつけろ! もし桃太郎がなんJ民だらけだったら - 男の魂に火をつけろ!
もし梶原一騎が桃太郎を書いたら - 男の魂に火をつけろ! もし梶原一騎が桃太郎を書いたら - 男の魂に火をつけろ!
もし伊藤政則が桃太郎を書いたら - 男の魂に火をつけろ! もし伊藤政則が桃太郎を書いたら - 男の魂に火をつけろ!
もし淀川長治が桃太郎を解説したら - 男の魂に火をつけろ! もし淀川長治が桃太郎を解説したら - 男の魂に火をつけろ!
もし鈴木涼美が桃太郎を書いたら - 男の魂に火をつけろ! もし鈴木涼美が桃太郎を書いたら - 男の魂に火をつけろ!
もしタカアンドトシが桃太郎をやったら - 男の魂に火をつけろ! もしタカアンドトシが桃太郎をやったら - 男の魂に火をつけろ!
もし全盛期の古館伊知郎が桃太郎を実況したら - 男の魂に火をつけろ! もし全盛期の古館伊知郎が桃太郎を実況したら - 男の魂に火をつけろ!
もし吉田豪が桃太郎一行にインタビューしたら - 男の魂に火をつけろ! もし吉田豪が桃太郎一行にインタビューしたら - 男の魂に火をつけろ!
もし富野由悠季が桃太郎を書いたら - 男の魂に火をつけろ! もし富野由悠季が桃太郎を書いたら - 男の魂に火をつけろ!
もし頭脳警察が桃太郎を歌ったら - 男の魂に火をつけろ! もし頭脳警察が桃太郎を歌ったら - 男の魂に火をつけろ!

もし夢枕獏が桃太郎を書いたら

昔。
或。
爺。
婆。
住。
山。
柴。
川。
濯。
呑。
武。
羅。
虎。
流。
大。



「――ふひゅう」


たまらぬ桃であった。

桃太郎は、鬼ヶ島へ向けて歩き出した。
歩いた。
歩いた。
歩いた。
歩いた。
ただ歩いた。
風が、吹いた。
金木犀の香りが、夜気に流れ出していた。


目の前に現れた男を見た瞬間、桃太郎の脊髄にこわいものが走った。
太い男であった。
男は、ころりとした拳をさもうれしそうな顔で撫でつつ、有無を言わせぬ太い声を叩きこんできた。


桃太郎さん、桃太郎さんよう。
おめえさんの腰につけてるそいつを、
――キビ団子ってえのかい――
そいつをよう、おいらにひとつ、わけてくれねえかい。



「ぬうっ」
桃太郎の肉の裡に高圧が生じ、ふくれあがってくるのがわかった。
呼気を吐くように、つぶやいた。


――やるさ。ああ、あんたにやろうじゃねえかよ。
だがな、ただってわけにはいかないぜ。
俺ぁこれから、鬼ヶ島へ討伐にいくのさ。
それにあんたが、ついてくるってんなら――やるぜ。


「にいっ」
男の、太い口の端が吊り上がった。
太い笑みであった。


行くぜ。どこまでも行くしかあるまいよ。
おいらはよう、おめえさんみたいな男が好きさ。
わかっているぜ。おめえさんも、おいらみたいな男を探していたんだろう。
家来にだってなんだって、なってやるさ。おもしれぇぜぇ、桃太郎さんよう。


――そういうことになった。

さあ、ついに。
ついに、桃太郎の物語がはじまってしまった。
こうなってしまったからには、もうどこまででもぶっ書いてぶっ書いてぶっ書きまくるしかあるまい。
当初の予定では一巻で完結させるつもりだったが、なに、書いてみたらごらんのとおりだ。
桃太郎と松尾犬山の出会いを描くだけで、一巻目の枚数を使い果たしてしまったのである。
まことにもって、編集者諸氏には申し訳ないのだが、まだまだ書きたい場面が山ほどあるのだ。
次巻では、桃太郎と“マカコ”の対決をお届けできればと思っている。
ともかく、物語は動き出してしまったのだ。
さあ、知らねえぞ。
あと、五巻ほどはおつきあいを覚悟していただこうか。


平成二十七年五月二十一日 仙台にて
鷲羽大介