デカダンス・ダンス

こんな増田日記を見かけまして。


はじめて18禁ポルノ映画を見てきた はじめて18禁ポルノ映画を見てきた
はてなブログの人気者である青二才(id:TM2501)が、ラース・フォン・トリアーの『ニンフォマニアック』を観て、モヤモヤした感覚を味わってきたというもの。増田で書いたのはGoogleアドセンス対策らしいです。この人はいつも、あまり知識がないジャンルのものを自分の思い込みだけで長々と語るのが芸風らしいですが、「ポルノ映画ってあんな落ち着かないものなんだな!」とか「もうちょっと疲れないポルノ映画があれば、見てみたいし」などと書いているので、どうやらポルノというジャンルにもあまり明るくないらしいことがわかります。『ニンフォマニアック』はたしかに性をテーマにしていて、性描写もある18禁映画だけど、ふつう「ポルノ映画」とは言いませんよね。
(ちなみにこの人は「アダルトビデオは女を見下す快感のために観ている」みたいなことも言っていたので、そんな人にはぜひ『春原未来のすべて』を観て、女性観を丸ごと変えられてほしいと思ったものである)


では、「ポルノ映画とはなんぞや?」という話になりますけど、これはちょっと複雑な言葉の定義があるんですよね。


そもそも「ポルノグラフィ」という言葉の語源をたどると、古代ギリシャにおいて娼婦の生活を描いた美術や文学を指すものだといわれています。

少女コレクション序説 (中公文庫)

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(たしかこの本に書いてあったと思う)


しかし、この言葉が英語として成立したのはそれほど古い時代ではなく、辞書に載ったのは19世紀ごろからのようです。
当初は、読者に性的興奮をもたらすことを目的とする小説を指す言葉でしたが、その後は意味が拡大して絵や写真、映画もこう呼ぶようになりました。


で、ポルノ映画は映画の発明とほぼ同時に誕生したであろうと推測されていますが、20世紀前半までは非合法な地下流通物とされていました。これが表立って公開されるようになったのは1960年代以降のことで、アメリカでは1972年の『ディープ・スロート』が最初のハードコアポルノ(性器を明示した性描写があるもの)とされています。この映画はアメリカのポップ・カルチャーにおいて大きな影響力を持つことになりました。その制作秘話と、主演女優のその後については、主役のリンダ・ラヴレイスアマンダ・セイフライドが演じた映画『ラヴレース』を観るとよくわかります。

ラヴレース [DVD]

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同時期に作られた『グリーンドア』や『ミス・ジョーンズの背徳』もヒットし、一大ブームを巻き起こしました。現在も一般に「ポルノ映画」といった場合には、これらのアメリカン・ポルノを思い浮かべる人が多いようです。その時代の空気(ブームの勃興から衰退に至るまで)を再現した映画としては、ポール・トーマス・アンダーソン監督の『ブギーナイツ』が最適なサブテキストといえるでしょう。

ブギーナイツ [DVD]

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んで、日本で「ポルノ映画」といった場合は、1971年11月に日活が成人映画専門に転換して制作をはじめた、にっかつロマンポルノを思い浮かべる人が多いでしょう。第一号は、白川和子主演の『団地妻 昼下がりの情事』で、低予算ながらヒット作をいくつも輩出し、また、性描写さえあれば自由な作風が許されたため、金子修介周防正行といった才能ある監督もロマンポルノからデビューしています。

わが人生 わが日活ロマンポルノ

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しかし、最初に「ポルノ映画」という言葉を作ったのは実は東映で、1968年ごろから展開していた異常性愛路線(石井輝男監督の『徳川いれずみ師 責め地獄』とか『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』とか)の流れで、1971年の7月に池玲子杉本美樹を『温泉みみず芸者』でデビューさせるにあたり、従来の「ピンク映画」よりさらにハードでパワフルなイメージを打ち出すため、天尾完次プロデューサーが「ポルノ映画」「ポルノ女優」という言葉を発明したのであります。


日活のロマンポルノが、無名の俳優や女優を使い、しっとりしたドラマを描くことが多かった(予算がないのでアクションは難しかった)のに対し、東映ポルノはやたらと豪華で(梅宮辰夫とか山城新伍とか小池朝雄とか当たり前のように出てくる。特に名和宏はどの映画でも最高中の最高である)、大量の女優による裸踊りをフィーチャーした豪快さが売りでありました。70年代中盤以降は、やくざ映画とポルノのマッシュアップによるピンキー・バイオレンス路線に移行し、それはそれで愛好者が多いジャンルではあります。

東映ピンキー・バイオレンス浪漫アルバム

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で、さっき「ピンク映画」が従来からあった、と書きましたけど、これはもっと古い言葉で、1963年に「内外タイムス」が作ったとされています。
当時の日本映画にはメジャー5社(東宝東映・日活・松竹・大映)がありましたが、それ以外の会社が作った成人映画を「ピンク映画」と呼んでいました。当時の代表的な作家としては、若松孝二大和屋竺が挙げられるでしょう。

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今では日本映画の代表的監督といえる滝田洋二郎も、もともとはピンク映画出身の監督なのでありました。

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まとめると、日本では

  • ポルノ映画=東映か日活が作った成人映画、または外国の成人映画
  • ピンク映画=それ以外の会社(新東宝とかオーピー映画とか)が作った成人映画

という分け方になります。
1980年代後半になると、アダルトビデオの普及により日本におけるポルノ/ピンク映画は衰退の一途をたどることになり、上映館も非常に少ないのが現状であります。外国のポルノ映画(「洋ピン」と呼ぶ語法が一般的である)に至っては、もはや劇場で観ることはほぼ不可能といっても過言ではないでしょう。


というわけで、「疲れないポルノが観たい」という青二才の人には、これをオススメしたいですね!

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エロ将軍と二十一人の愛妾【DVD】

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日活ロマンポルノの名作といわれるものはいくつもありますが(代表的なのは『㊙色情めす市場』とか『白い指の戯れ』『一条さゆり 濡れた欲情』『『天使のはらわた 赤い教室』あたりだろうか)どれもあんまりリラックスして鑑賞するには向いてないというか、ドラマ的にビターなんですよね。


なので、ここはワスの個人的趣味もおおいに反映させて、鈴木則文監督による東映時代劇ポルノの傑作『徳川セックス禁止令 色情大名』『エロ将軍と二十一人の愛妾』を推しますね!



童貞で女性恐怖症だった殿様が、結婚のため金髪美女サンドラ・ジュリアンにより性の悦びを知り、「余が知らなかったこんな楽しみを、下々の者が味わうのはけしからん」と城下に閨房禁止令を出す(法令175条、と銘打たれているが、これは刑法175条、わいせつ物頒布等の罪に対する抗議と皮肉である)という『徳川セックス禁止令』、やはり童貞で女性恐怖症だった殿様の身代わりとして、女ねずみ小僧・池玲子(70年代最高の巨乳のひとり)の手引きにより、瓜二つで精力絶倫の農民(越後からやってきた「角助」という、明らかに田中角栄を意識したキャラ設定)がお城に入り込み、大奥の女性を片っ端からモノにしていく『エロ将軍』、いずれも強烈な反権力志向がありつつ、痛快な娯楽作品に仕上がっており、ギャグの濃厚さも現代のあっさりしたお笑いとはひと味違うので、脳みそがヒン曲がるぐらいの面白さを味わえる、と断言いたしましょう!


あと、最近は「ポルノ」といえばポルノグラフィティを指すことも多いけど、このバンド名はエクストリームのセカンドアルバムから取っていて……なんて説明はもういいよね。

ポルノグラフティ(紙ジャケット仕様)

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  • Extreme - Decadence Dance - Milano 25 June 2014


2014年のライヴ映像。ゲイリー・シェローンの動きは相変わらず気持ち悪くて何よりだ。