もし伊藤政則が桃太郎を書いたら
たまにはこのネタもやっておかないとね。たぶん、歴代でいちばん通じる人が少ないネタだと思うけど。
過去のシリーズはこちら。
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もし伊藤政則が桃太郎を書いたら
かつて人類の祖先が音楽というものを知ったとき、彼らは狩猟や収穫の喜びを祝う祭祀において、ハード・ロックを用いたに違いない。
それは桃太郎の誕生においても例外ではなかっただろう。
昔々、より正確にいうならば1974年3月12日のことである。あるところ、とだけ記憶している向きも多いだろうが、実際はイングランドの工業都市、誇り高きヘヴィ・メタルの本拠地ともいえるバーミンガムの運河にほど近い一角において、のちにロック・ヴォーカリストとなる桃太郎は、生を受けたという。
「――俺は、運河を流れる腐った桃の中から生まれたのさ」
桃太郎は、かつて僕のインタビューにこう答えたことがある。1998年、あの衝撃的だったデビュー・アルバム『Momotaro and The Kibi Cakes From Hell』をリリースして間もないころだ。今でも彼は、自らの生い立ちについて多くを語りたがらない。おそらくは悲惨な記憶を引きずっているのであろう。そう、あのアクセル・ローズもそうだったように――。
あれから17年の月日が流れた。ロック・シーンはその間も激動を一瞬たりとも止めることはなく、多くのミュージシャンが、多くのバンドが現れては消えていった。
そう、桃太郎にも「消えた」と言われていた時期はあった。あの衝撃的なスキャンダルについて、このライナーノーツで触れないのは公平でないだろう。桃太郎は2001年の11月、岡山県の離島でリゾートを楽しんでいたとき、乱闘事件に巻き込まれて重傷を負った。そしてドラッグや刀剣の不法所持が発覚し、実刑は免れたもののリハビリ施設への入所を余儀なくされたのである。
「――あの時期の桃太郎は、まさにクレイジーだったよ。俺たちにもコントロールすることはできなかった。そう、ケミストリーがなくなっていたのさ。ソングライティングの面でも、バンドの人間関係でもね」
「Kibi Cakes From Hell」の中核をなす、ギタリストの犬は僕にこう語った。はた目から見ても、彼らの間に不協和音が流れていたことは明らかだったが、本人たちの証言はやはり重い。
桃太郎が姿を消していた間、犬がグラハム・ボネットのバンドでサポート・メンバーをつとめていたことを記憶しているファンは多いだろう。2度の来日にも帯同していたし、グラハムからは正式メンバーとしての加入も求められたというが、彼は固辞し続けた。
「俺は、あくまでKibi Cakesのギタリストなのさ。でもグラハムは自由にやらせてくれたし、彼には感謝しているよ」
猿やキジも、あるときはセッション・ミュージシャンとして、あるときはジャズ・バンドのサポートメンバーとして、それぞれの活動を続けていたが、彼らも常に桃太郎の帰還を待ち続けていたのである。
そして、ついに彼らは奇跡の復活を遂げた。17年ぶりとなるこのセカンド・アルバム『Strike Back To Goblin's Land』を引っ提げて――。
「富も名声も、失えるものは全て失ったよ。でも、たったひとつだけ俺に残されたものがあった。何があっても失うことのできないものがね。言うまでもないだろう? ――ロックンロールさ!」
そう語る桃太郎の顔には、たしかに17年分の年輪が刻み込まれていた。楽曲も、デビュー・アルバムで見せたソリッドで荒々しいロックンロールに、人生の辛酸をなめてきた深みがたしかに加えられている。唯一無二であることの誇りが込められている。それが最も顕著に表れているのが、アルバムのラストを飾る2曲“Get Rich Or Die Trying”から“A Blues Of The Treasure Hunter”への流れであろう。疾走感あふれるロックナンバーから、切々と歌い上げるブルースへの流れに、僕は涙をこらえきれなかったのである。
これ以上の言葉で、このアルバムを表すことはできない。桃太郎よ、それは無理だ! 僕に、世界に存在する最も美しく、しかも劇的な形容詞をさがせたって。凄すぎるよ、あんまり。僕の流した感動の涙じゃゆるしてくれないというのかい!
本物のロックンロールを求める若者たちよ。泣くがいい、声をあげて泣くがいい。その涙は必ずや桃太郎のもとへ届き、彼らの新しい時代を呼ぶきび団子になることであろう。
通じる人が3人ぐらいしかいなさそうだけど、でもやるんだよ!
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