魔力の刻印

初冬のはてなを騒がせた「男はケモノ」論議も、ひと段落してきた感があります。


自衛と差別 - シートン俗物記
(↑コレ読んでまだ問題が理解できない人は、もう発言しない方が自分のためだと思う)


それでもやっぱり「男をケモノ呼ばわりするのはけしからん」と言う人もいるかもしれませんが、オトコにとって「野獣」というのはけして不名誉なだけの称号ではなかったと思うんですけどねぇ。

アレイスター・クロウリー

法の書

法の書

20世紀初頭の英国の神秘主義者で、魔術師を僭称していたクロウリーは、自らを新約聖書ヨハネの黙示録」に登場する獣にたとえて「666の獣」と自称していました。性やドラッグにまつわる放埓ぶりは有名で、後年のロック・アーティストにも大きな影響を与えています。ジミー・ペイジクロウリーがかつて住んでいたという館を買っているし、オジー・オズボーンのソロ・デビューアルバム『ブリザード・オブ・オズ』に収録されている、彼をモデルにした名曲”ミスター・クロウリー〜死の番人”は、悲劇の天才ランディ・ローズによる素晴らしいギター演奏もあって、今も聴き継がれています。


(↑ちなみに現行の商品では、オリジナル録音時のメンバーと揉めたため、ベースとドラムを新音源に差し替えてある)

皇帝ネロ

また、彼が自称した「666の獣」は、現代の聖書学では、ローマ皇帝ネロを指すという解釈が一般的になっています。

我が名はネロ (1) (中公文庫―コミック版)

我が名はネロ (1) (中公文庫―コミック版)

ネロの名をヘブライ語で表記し、カバラ数秘術で数字を当てはめると666になるというんですね。


キリスト教徒を迫害したネロを、反キリストの怪物にたとえてしかも簡単な暗号で表現したというのは、一種、つのだじろうが、『魔子』という作品中で「カラワジ・イキツ・キマト・ワヒオサ・ハノクキヨウ・ミツオ・レシモオイ…呪われよ!」という呪文に託して、梶原一騎真樹日佐夫のことをDISったという故事に通じるものがなくもない、というか。

獣の数字

カラワジ先生のことはともかく、「666」はホラー映画やヘヴィ・メタルのモチーフとしてよく用いられており、1976年の映画『オーメン』や、アイアン・メイデンの1982年のアルバム『魔力の刻印』は有名です。

(↑首チョンパ映画の金字塔である)

  • The Number Of The Beast - Iron Maiden {Live Rock In Rio}


Number of the Beast

Number of the Beast

伊達邦彦

大藪春彦のデビュー作『野獣死すべし』の主人公である伊達邦彦も、タイトルどおり野獣にたとえられることが多く、後年のシリーズ作品も『優雅なる野獣』『不屈の野獣』『野獣は甦る』『野獣は、死なず』などと題されています。彼が所有しているヨットも”ザ・ビースト”号というから念が入っているというか。

大藪春彦伝説―遙かなる野獣の挽歌(バラード)

大藪春彦伝説―遙かなる野獣の挽歌(バラード)

ちなみに、『血まみれの野獣』『野獣都市』『狙われた野獣』などは伊達邦彦とはまったく無関係な作品なので、お間違えのないよう。


もひとつちなみに、『獣を見る目で俺を見るな』という作品もあるのですが、この題名は「男をケモノ呼ばわりするなんて許せないウワーン」派の方々にうってつけかもしれんですね。

獣を見る目で俺を見るな (徳間文庫)

獣を見る目で俺を見るな (徳間文庫)

ボブ・サップ

スポーツ選手では、阪急ブレーブスの投手だったブラッド・レスリーが”アニマル”の登録名で活躍したことや、プロレスラーのジョー・ロウリネイティスが”アニマル・ウォリアー”のリングネームで”ロード・ウォリアーズ”として活躍した(ちなみに、相棒だったホーク・ウォリアーの本名はマイケル・ヘグストランドである)ことが有名ですが、近年は”ザ・ビースト”のギミックで戦っているプロレスラーで格闘家のボブ・サップがよく知られています。

SAPP Time!

SAPP Time!

2002年に日本デビューし、2004年ごろまではそのパワーを生かした全力ファイトで一世を風靡したサップでしたが、契約問題で一時リングから遠ざかってからは戦績も人気も低迷しており、2009年には三試合やって三試合とも1ラウンド一本負けという成績に終わっています。


今年の五月には、体重が70キロも軽い美濃輪育久に1分ちょっとでギブアップ負けを喫し、全盛期を知るファンを大いに嘆かせたものでした。


”獣”より”超人”の方が強い、ということになりますが、だからといって「”超人”になって”獣”から自衛すべし」なんていう結論には持っていかないで欲しいものです。

ツァラトゥストラはこう言った 上 (岩波文庫 青 639-2)

ツァラトゥストラはこう言った 上 (岩波文庫 青 639-2)

そういえば、ボブ・サップの入場テーマ曲も”ツァラトゥストラはかく語りき”だったなぁ。