大人の事情漫画『激マン!』

週刊漫画ゴラクで連載している、永井豪の自伝漫画『激マン!』は、取り上げる作品によって主人公が別人キャラになるという変則的な連作形式を取っています。

激マン! 1 (ニチブンコミックス)

激マン! 1 (ニチブンコミックス)

デビルマン篇」では悩める青年「ながい激」、「マジンガーZ篇」では細かいことを気にしない豪快な「ナガイ激」で、現在連載中の「キューティーハニー篇」ではダイナミックプロ全員が女性化して、過剰なお色気サービスを得意とする「永居香激」に変身しています。豪ちゃん先生がどう変身しても石川賢はほぼ変わらない(女性化しても顔が同じ)のもステキではあります。


んで、3篇続けて読んでみると、まぁだいたい同じ時期のできごとなので全体でひとつの話ではあるんですが、3つとも似たような展開なんですよね。


デビルマン篇」では、それまでギャグ漫画を各誌に量産していた(週刊少年漫画誌5誌に同時連載していた時期すらある)永井豪が、本格的ストーリー漫画として、東映動画とのタイアップで『デビルマン』を少年マガジンに連載開始します。作中の「ながい激」は新境地に挑むためほかの連載をどんどん終わらせて(少年ジャンプの『ハレンチ学園』や少年チャンピオンの『あばしり一家』など)、東映動画から敵デーモンのデザインもどんどん発注されるのでそこでは石川賢に助っ人を頼みつつ、漫画『デビルマン』に集中しますが、テレビアニメ終了に伴って漫画版も連載終了する、という内田編集長の決定により当初の予定より早く完結させなければならなくなり、その結果としてあの凄まじい結末が生まれた、という物語であり、漫画家漫画としてわりとスタンダードな展開といえるでしょう。

激マン! 6 (ニチブンコミックス)

激マン! 6 (ニチブンコミックス)



これが『マジンガーZ篇』になると、主人公は明朗快活な人格「ナガイ激」に変わっていますが、内容はけっこうシビアな大人の事情をフィーチュアしています。

「渋滞に巻き込まれた永井豪が『車から脚が生えて、前の車をまたいでいければいいのに』と思ったことから『人間が乗って操縦する巨大ロボット』というモチーフの発想を得た」という誕生エピソードは有名ですが、そこからけっこうな紆余曲折を経るんですね。

  • 漫画雑誌に企画を持ち込むものの「巨大ロボット漫画なんて古い」と相手にされない
  • そこでアニメ業界に持ち込み、東映動画がアニメ化にGOサインを出す
  • しかし、アニメ放送の条件として「週刊少年誌での連載」を出される
  • 仕方なく、『ハレンチ学園』を無理にやめたばかりの少年ジャンプに話を持ち込み、なんとかOKをもらう
  • 東映動画から敵機械獣のデザインをどんどん発注されるので、石川賢に助っ人を頼む
  • アニメもマーチャンダイズも大ヒットとなり、東映動画から「幼児向けテレビ雑誌での漫画連載」を要請される
  • これにジャンプの長野編集長が「ジャンプの漫画はよその雑誌には載せない」と激怒し、ジャンプでの連載は打ち切り


と、ここで「マジンガーZ篇」はいったん終了となり、続いて「キューティーハニー篇」がスタートします。

こちらは東映動画から女子向けアニメの企画として持ち込まれ、強くてセクシーでかっこいいヒロイン像を作り出した「永居香激」が、東映動画からどんどん発注される敵アンドロイドやハニーの服装のデザインではやはり石川賢に助っ人を頼みつつ、アニメと漫画の企画を同時進行していきます。


そして、ここでもまた東映動画から「週刊少年漫画誌での連載」を要請され少年マガジンでは『デビルマン』は終わっていたもののすでに『バイオレンスジャック』を連載開始しており、ジャンプでは『マジンガーZ』による決裂のため掲載が不可能だったので、『あばしり一家』を無理にやめたばかりの少年チャンピオンに連載するため、壁村編集長に直談判するというおそろしい展開になっていきます。

キューティーハニー篇」では「永居香激」はじめダイナミックプロの面々が全員女性に変身しているので、この直談判の場面は色仕掛けによるギャグ演出で描かれていますが、どれも東映動画から無理な要請を受けて、漫画雑誌の編集部とタフな交渉を余儀なくされる」話なんですよね。東映動画が70年代以降におけるアニメのビジネスモデルを確立していった経緯がよくわかるんですが、同じような話になるのを避けるために、主人公を女性化させたりなどの工夫をしているのかもしれないなと思いました。きっと大変な思いをしたからギャグに書き換えてるんだろうなぁ。というかそもそも、「マジンガーZ篇」を中断して「キューティーハニー篇」を始めたのも、西内まりや主演の映画とのタイアップだというこれまた大人の事情があるのも味わい深い。あと石川賢はどこで出てきても面白いです。「バイオレンスジャック篇」もいいけど「ゲッターロボ篇」も早く読みたいなあ。