門前払いの力学

5月に小金井市で、女性シンガーがストーカーの男に刺され一時意識不明の重体となった事件がありましたが、一命を取り留めた被害者が、警察の対応を批判する手記を発表しています。


刺傷事件で被害の女子大学生が手記 警察に不信感 | NHKニュース 刺傷事件で被害の女子大学生が手記 警察に不信感 | NHKニュース

ことし5月、東京・小金井市で音楽活動をしていた女子大学生が男に刃物で刺された事件で、被害に遭った女子大学生がNHKに手記を寄せ、「殺されるかもしれないと何度も警察に伝えたにもかかわらず危険性がないと判断されたのは今でも理解できません」などと、警察への不信感や現在の心境を初めて明らかにしました。
(手記は全文を掲載)
ことし5月、東京・小金井市で音楽活動をしていた大学3年生の冨田真由さん(21)がナイフで刺され、岩埼友宏被告(28)が殺人未遂などの罪で逮捕・起訴されました。

冨田さんは一時、意識不明の重体になりましたが、現在は通院しながら治療を続けていて、事件から半年余りがたった16日、NHKにA4用紙4枚につづった手書きの手記を寄せ、初めてみずからの言葉で心境などを明らかにしました。

この中で、被告からのSNSの書き込みが始まったおととし6月以降、不安や恐怖が募り、警察署を訪れて「殺されるかもしれない」と訴えた経緯をつづっています。それにもかかわらず被害に遭ったことについて、「殺されるかもしれないと何度も伝えたにもかかわらず、危険性がないと判断されたのは今でも理解できません」と警察への不信感を記しました。

さらに、先月から今月にかけて警視庁から事情を聞かれた際に、「本当に殺されるかもしれないと警察に言ったのですか」などと何度も聞かれたことを明かし、「この事実を警察が認めないことに怒りを通り越して悲しみを感じています」と記しました。

そして現在の心境について「事件に遭った日から時間が止まってしまったかのように前に進むことが怖くなってしまいました。この事件をきっかけに、同じ不安や恐怖を抱えて苦しんでいる人が安心できるような社会に変わってくれたらうれしいです」とつづっています。

警視庁は、事件の対応について16日、最終的な検証結果を公表する方針です。

リンク先のNHKサイトには手記の全文も載っています。


で、この手のニュースには必ず「警察が24時間護衛するようなリソースはない」「芸能人は危険にさらされて当然」という反応がつくものですが、今回も例外ではありません。でもそういう人たちって、ちゃんと手記を読んでるんですかね。


ここで明かされてる、批判されてる警察の対応で一番まずいのは、事件後の聴取で「本当に殺されるかもしれないと言ったんですか」「殺されるかもしれないという言葉を言っていないのではないか」と何度も言った、ということですよ。これ明らかに、被害者の訴えをいい加減に処理したのをごまかし、危険性は低かったということにするためじゃないですか。


つまり、あの「桶川ストーカー殺人事件」で埼玉県警上尾署がやった、悪名高い「告訴状改ざん」及びその隠蔽と、本質的には同じ行為です。

桶川ストーカー殺人事件―遺言―

桶川ストーカー殺人事件―遺言―


この事件を受けてストーカー規制法が制定され、その後も条文が改正されてきましたが、各地の警察は必ずしも法律に則った対応をしたとはいえず、捜査上の不手際や怠慢が被害を拡大した例がいくつもあります。



清水潔の『桶川ストーカー殺人事件―遺言―』を読んだときは、職業人としてあまりに不自然な上尾署の怠慢捜査に、県警は犯人に買収されていたのではないかと疑いを持ちましたが、その後の複数の事件を見るに、どうやら警察という組織には、ストーカーにはなるべく協力して、できれば危害行為にまでエスカレートさせたい、という黒いリビドーが存在しているとしか思えなくなりました。


んで、警視庁が発表した「検証結果」によれば案の定「相談の場で“殺されるかもしれない”という発言はなかった」と結論付けられており、さすがにこの組織はブレねえなと痛感させられましたね。



個人に対し「殺してやる」と書いても逮捕されないけど、「当職は市役所に114514個の爆弾を仕掛けたナリ。3時34分に爆破しますを」などと悪ふざけで書き込んだ人間はすぐ逮捕される。つまり、警察としては人の命が危険にさらされることより、国家権力がおちょくられることのほうがはるかに重大だととらえているってわけです。ま、世の中ってのはそういうもんです。