そしてボクは外道マンになる

ゲンロンカフェの沖縄出張版で、評論家で沖縄県立芸術大学准教授の土屋誠一さんという方が、「沖縄を舞台にしたオタクコンテンツが生まれていない」と発言したというので、ツイッターで大きな批判の動きが高まり、同じようなtogetterまとめが乱立する事態になっています。



沖縄を舞台にしたオタクコンテンツが生まれていない - Togetterまとめ 沖縄を舞台にしたオタクコンテンツが生まれていない - Togetterまとめ
「沖縄発のオタクコンテンツが生まれない」と発言したら「は?読もう?」「見ないで発言するんじゃねーよ!」とオタクから袋叩きに遭う美術評論家 - Togetterまとめ 「沖縄発のオタクコンテンツが生まれない」と発言したら「は?読もう?」「見ないで発言するんじゃねーよ!」とオタクから袋叩きに遭う美術評論家 - Togetterまとめ


アレもあるコレもある、お前はモノを知らない、という指摘が次々に寄せられており、土屋准教授も若干逆ギレ気味になっております。ウルトラマンの脚本を執筆した金城哲夫上原正三、『エウレカセブンAO』や『BLOOD+』などはちゃんと押さえていて、その上で、沖縄を舞台にしたサブカル/オタクのコンテンツが、地域の持つ話題性や観光地としての人気のわりに少ない、ということなんでしょうね。

金城哲夫 ウルトラマン島唄

金城哲夫 ウルトラマン島唄


まぁこれは統計とか取ってない個人的な肌感覚に属する話ですが、沖縄ってリア充のリゾート地というイメージがあって、オタク的コンテンツとはそんなに相性がよくない感じはするんですよね。沖縄を舞台にしたコンテンツというと、オタク文化とは非常に相性の悪い、パチンコ業界に多いですし。


ちなみに沖縄のパチンコ業界には独特の文化があり、沖縄県向けに作られた、コインの直径が全国向けと異なる(全国標準は25mm、沖縄向けは30mm)「沖スロ」と呼ばれるパチスロ台があります。ゲーム性も独特で、大当たりのときはリールが回転し始めた時点でランプが点灯するなどして、図柄が止まるより先に当たりを告知するシステムになっています。これを受けて、パチンコでも京楽産業の遊技機には「沖ぱちモード」が搭載されているものがあり、リーチがかかっている間にランプが点灯したりハンドルから空気が噴出されたりして、図柄が止まる前に大当たりを知らせるシステムを選ぶことができたりします。


まぁパチンコの話はどうでもいい。



沖縄を舞台にした漫画やアニメやラノベについて、『あそびにいくヨ!』とか『ナチュン』『ムシユヌン』などいろいろ挙げられていて、土屋准教授も「そんなの知らない」「それは知ってる」など回答しているようですが。

ナチュン(1)

ナチュン(1)

ムシヌユン 3 (ビッグコミックス)

ムシヌユン 3 (ビッグコミックス)


土屋准教授が求めているのは、こういうテイストのようです。


オレはね、心の底から絶望しているんですよ。


ここまで方向性がはっきりしていて、なぜ誰も『ドーベルマン刑事』を挙げない!

ドーベルマン刑事 第11巻

ドーベルマン刑事 第11巻

ドーベルマン刑事』を代表する傑作エピソードのひとつ「沖縄コネクション!!の巻」。本土に返還されて間もない沖縄が、東京へ麻薬を密輸する拠点になっていることがわかり、沖縄へ乗り込んでいく「ドーベルマン刑事」こと加納錠治と仲間たち。到着そうそうに地元ヤクザから機関銃で撃たれたり(「めんそ〜れ!」と叫びながら乱射する)、地元警察との軋轢で動けなくなったりと苦しみますが、ついに、在沖縄米軍のドンたるマッケンジー琉球列島高等弁務官と、その手下でベトナム帰りの黒人、グッナイトジョー中尉がその黒幕であることを突き止めます。グッナイトジョーは沖縄の女性をレイプしては殺す殺人鬼で、デフォルメされた黒人っぽい風貌もあいまって、基地反対派を「基地外」と揶揄する向きからしたら、ヘイトスピーチだという声も挙がるでしょう。


そして、かつてジョーに恋人をレイプされ殺されたものの事件をもみ消された空手使いのヤクザとか、かつて米軍の火炎放射器で背中を焼かれたものの「被害者意識は甘えだ!」と断じ精神面でも真の独立を求めようとする沖縄県警の刑事、などなどポリティカルな背景を持ったキャラクターたちが戦ったり死んだりして、加納も重傷を負いながらヤクザの妹のナースにかくまわれるものの彼女もジョーにレイプされ殺されたりとドラスティックな展開を見せます。最終対決でも、加納はついにさとうきび畑でマッケンジーとジョーを追いつめたものの、何の脈絡もなく出てきたハブに噛まれたりして、平松伸二作品に特有の「いんだよ細けえことは」精神がこういうポリティカルな話にもいかんなく発揮されていることがわかります。



なお、平松伸二は隔月刊誌「グランドジャンプPREMIUM」にて、自伝漫画『そしてボクは外道マンになる』を連載中です。

最近は『重版出来』がドラマにもなったり『バクマン』が映画になったりしていて、漫画編集者をキラキラした社会人として描く作品が多いですが、『外道マン』では実在する「週刊少年ジャンプ」編集者をヤクザまがいの凶悪な男たちとして描いており、かつてジャンプが少年漫画誌の中でも飛び抜けて殺伐としていた、あの時代の空気を彷彿とさせる味があるのでアラフォー以上の漫画おじさんは必読であります。

去年亡くなったばかりの西村繁男元編集長をモデルにした人物に「仁死村」と名づけるあたりも、平松伸二イズムを強烈に感じるのでありました。