カーネーション・リインカーネーション
魑魅魍魎が蠢くこの地獄インターネットでは、よく「最近のラノベやアニメは主人公を甘やかしすぎる」というおじさんの繰り言が聞かれます。今回の話題はこちら。
「この素晴らしい世界に祝福を!」はコンプレックスまみれの視聴者を徹底的にいたわった作品? - Togetterまとめ
トラック転生して異世界という名の想像力のかけらもないゲーム世界に行って、なんの苦労もせず女の子がいっしょにいてくれるアニメを見たけど、コンプレックスまみれの視聴者をかくも徹底的にいたわった作品を摂取して喜んでたら自滅だよ。少しは向上心持とうよ。
— 尻P(野尻抱介) (@nojiri_h) 2016, 1月 21
「小説家になろう」でWEB連載→ラノベ出版→アニメ化という経緯をたどった作品『この素晴らしい世界に祝福を!』について、SF作家の野尻抱介とラノベ作家の新木伸が議論をしています。いや「議論」ってほどでもないか。野尻氏は「コンプレックスまみれの視聴者をかくも徹底的にいたわった作品を摂取して喜んでたら自滅だよ。少しは向上心持とうよ」と手厳しいですが、新木氏は「向上心のある娯楽ばかりに偏っているほうが、むしろ不健全な状況」と返しており、まぁどっちの言うこともわかります。というか、この『この素晴らしい世界に祝福を!』(通称は「このすば」)という作品自体が、「個性の弱い主人公が独創性のないRPG世界に転生して、どっかで見たような美少女たちに囲まれて冒険するテンプレラノベ」のパロディになっている側面もあるようなんですけどね。
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どうやら、「小説家になろう」にいっぱい載せられているたぐいのテンプレラノベでは、「現世でトラックにはねられて死んだ主人公が異世界に転生する」という導入部のものが多く見られているようです。以前の『ゼロの使い魔』あたりだと、異世界の誰かによって主人公が召喚されるパターンが多かったんですが、いつのころからかこのパターンが定番化しており、『このすば』はそのパロディにもなっているようです。
(作中では、主人公はトラックではなくトラクターにひかれそうになってショック死する)
現実世界で生きていた主人公がファンタジー世界に召喚される作品というと、アニメではおそらく『聖戦士ダンバイン』がその嚆矢かと思われますが、あちらでは主人公ショウ・ザマはバイクに乗っていたときにバイストン・ウェルへ召喚されます。小説でさらに遡ると、半村良の『戦国自衛隊』も自衛官たちがヘリや戦車やトラックごとパラレルワールドの戦国時代へ召喚されるので、異世界への転移と乗り物は相性がいいのかもしれません。
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「冒頭で主人公がトラックにはねられて死ぬ」という展開は『幽☆遊☆白書』あたりから始まっているんだと思いますが、「主人公がトラックにひかれて転生する」という物言いからは、古株のアニメファンなら『魔法のプリンセス ミンキーモモ』を連想する人も多いでしょう。
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ちなみに、この展開は「スポンサーのおもちゃ会社から打ち切りを通告された脚本家の首藤剛志が『モモはおもちゃ屋に殺された』というメッセージを込めた」もので、今でも語り草になっています。「最終回」と誤解している人も多いですが、実際には全63話のうち46話目でした。いったん打ち切りが決まった後に、スポンサーの都合で新商品の販促を入れての延長が決まり、単なる人間の赤ん坊になったモモと何の意味もない新キャラを抱えて首藤氏がいかに苦労したか、というエピソードもまた読み応えがあります。
(くわしくはこの辺りを参照→WEBアニメスタイル_COLUMN 首藤剛志「第57回 『ミンキーモモ』残り4話で、最終回にまとめる方法?」 、WEBアニメスタイル_COLUMN 首藤剛志 第58回 『ミンキーモモ』打ち切り・最終回・延長 )
『ミンキーモモ』は大人の世知辛さを反映したトラック転生でしたが、現今のトラック転生ものを「安易だ」と批判する書き手は少なくなく、さまざまにパロディされています。
トラック転生多すぎだろ! 〜トラックの運ちゃんたちが泣いてます〜
こちらは、異世界に転生するためトラックにひかれて死のうとする志望者が多数いる道路を、木材の輸送のため突っ走るトラッカーの物語。主人公の名前は「菅原文太郎」ですが、『トラック野郎』へ寄せた要素はほとんど見られないのが惜しいところです。
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転生したらトラックだった件 〜魔物を上手に轢(ひ)けるかな? 奴隷エルフ幼女と征く無双ダンプカー異世界スロードライブ〜
こちらは、現世でトラックにひかれた主人公が、異世界でトラックに転生して魔物をひき殺しまくるという世にもくだらないお話。世の中にはバカな人(褒め言葉)がいるもんだなあ、と思ったら作者は『撲殺天使ドクロちゃん』のおかゆまさきでした。「トラック転生」という語感からするとこっちのほうがしっくりくるかなあ。
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