文学賞あれこれ
- 作者: 又吉直樹
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2015/03/11
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (160件) を見る
(個人的には、何度か仙台や山形でお会いしている東山彰良先生が『流』で直木賞を取ったことのほうが大きなトピックではあるが)
- 作者: 東山彰良
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2015/05/13
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (115件) を見る
「報道ステーション」では古舘伊知郎が「芥川賞と本屋大賞の区分けが段々なくなってきた感じがするんですけどね」などと発言して物議をかもしていますし、はてな匿名ダイアリーでもこんな記事がありました。
火花が芥川賞を取った
お笑い芸人の本だ。一時間で読了したがたいした感想もなかった。芸人をささえる風俗嬢なんて滑稽すぎて反吐がでそうだった。純文学と評されているようだが文体を借りただけで内容はけっして純文学ではない。むしろ現代社会に毒されている記述が多々見受けられた
そんなことはどうでもいい。読み物としてはどこにでもある、いわゆるひまつぶし程度の物で嫌いではない。が芥川賞を取るべきかと言われれば断じてNOだ。
文化の商業化がひどい
AKBも音楽という服を着ているだけで形骸だ。すこし前にKAGEROUがどっかの本屋大賞をとったがただのダジャレ小説には評するところはひとつもなかった。火花は読み物としてまだ一定の価値があるのだが
文化が資本に侵されている
音楽や小説など村上の言葉を借りるなら常に卵の側に立つべき存在の文化が資本の側にたってしまっている
文明は進歩していかなければいけない。ITや技術革新など進めば進むだけ是とされるが文化というのはすこし違う。文化は過去に根差している部分が多い、文明は資本主義で発達していくことができるが文化は資本には殺される、文化は精神的な部分に佐座しているので文明とは距離を取って語られなければいけない。
顔を見てみたい。かの料亭で文学について語る審査員の顏を
「審査員の顔を見てみたい」って書いてるけど、選考会の写真ぐらい来月の「文藝春秋」に載ってるんじゃないの?
あと、水嶋ヒロは本屋大賞なんて取ってないよ!
ぼくは『火花』を読んでいないので作品についての評価はできませんが、書評家による評価は高く、ぼくが「せんだい文学塾」などでお世話になっている池上冬樹先生も「あれは傑作だよ」とおっしゃっていたので、受賞したのも納得はできます。
▼芥川賞は島本理生さんにあげてほしかったが、又吉直樹の芥川賞受賞は納得。『火花』は傑作。拙いところもあるが、それでも誰にも書けない感覚と文章がある。羽田圭介に関しては純文学ばかり語られているが、警察小説『盗まれた顔』にも注目。てっきりこれでエンタメに転身するのかと思ったのだが。
— 池上冬樹 (@ikegami990) 2015, 7月 17
出版社が売るためには話題性も重要ですが、賞の性格からいうとむしろ「芸能人が書いた」というのはマイナスにはたらくはずなので、それだけ作品に力があったということでしょう。
古舘伊知郎の「芥川賞と本屋大賞の区別がなくなってきた」というのは単に出版業界に興味がないための誤解だと思われますが、とはいえ、日本には文学賞がたくさんあるので、どれがどんな性格を持つのかわからない人も多いでしょう。又吉が出ていた「踊る! さんま御殿」では、明石家さんまが「芥川賞と直木賞ってどっちがすごいの?」と聞いていたぐらいです。というわけで、初心者向けに概説しておこうと思います。
芥川賞と直木賞の違いって?
芥川賞は芥川龍之介の功績にちなみ、若手作家の純文学作品に対して与えられる賞で、直木賞は直木三十五の功績にちなみ、若手〜中堅のエンターテインメント作品に与えられる賞です。また、芥川賞は「新聞・雑誌・同人誌に掲載された短篇」が対象ですが、直木賞は「雑誌に掲載された短篇もしくは単行本」が対象となっているというのも、賞の性格としての違いです。
では、純文学とエンターテインメント小説の違いは何か。これはよく論争になりますが、両方の分野で活躍してきた角田光代先生からぼくが直接聞いた話では、「雑誌が違う」という明確な区別があるそうです。逆にいえば、書き手としての意識にそれほど大きな違いはない、ということでしょう。
たとえば、文藝春秋には「文學界」と「オール讀物」という雑誌があります。「文學界」は純文学雑誌、「オール讀物」はエンターテインメント雑誌と区別されます。この区別は、業界の慣習として「文芸誌」「小説誌」という名称で呼び分けられています。
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2015/07/07
- メディア: 雑誌
- この商品を含むブログ (2件) を見る
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2015/07/22
- メディア: 雑誌
- この商品を含むブログ (1件) を見る
ここでいう「小説誌」は、戦後から70年代ぐらいには、大衆小説と純文学の中間という意味で「中間小説誌」と呼ばれていましたが、いまはこの言葉はあまり使われていないようです。
文芸誌と小説誌の両方を出している出版社は多くなく、会社の性格に応じてそれぞれに雑誌を刊行しています。河出書房新社では、文芸誌の「文藝」を出しており、角川書店では小説誌「野性時代」、光文社では小説誌「小説宝石」を出している、といった感じです。双葉社の「小説推理」や、早川書房の「ミステリマガジン」「SFマガジン」などの専門誌も、「小説誌」に含まれます。
芥川賞は、基本的には文芸誌に掲載された短篇から選ばれるので、歴代受賞作のほとんどが「文學界」「新潮」「すばる」「群像」「文藝」のいずれかに載った作品です。
基本的にはこれらの雑誌から選ばれる、と覚えておけばいいでしょう。
直木賞は、規定では「短篇もしくは単行本」が対象とされていますが、歴代受賞作を見ると、ほとんどが「一冊の単行本」になっています。
この辺も、芥川賞との性格の違いになるでしょう。
で、芥川賞と直木賞を両方とも受賞した作家はいまのところいませんが(いちど受賞した人は、その後は両方とも対象外となる)、角田光代先生は芥川賞にノミネートされた数年後に直木賞を受賞していますし(直木賞は芥川賞よりキャリアのある作家が選ばれる傾向がある)、ほかにも同じように芥川賞ノミネート後に直木賞を受賞した作家は何人かいます。また、今回「夏の裁断」でノミネートされた島本理生先生は、2011年には『ナラタージュ』で直木賞の候補にもなっています。昔はこの辺の境界がさらにあいまいで、1950年代以前には、両方に同時ノミネートされる例もありました。
また、文藝春秋が主催する芥川賞/直木賞とほぼ同じ性格を持った賞としては、新潮社が主催する三島由紀夫賞/山本周五郎賞があり、講談社の野間文芸新人賞/吉川英治文学新人賞もこれに近いといえるでしょう。又吉の『火花』は三島賞にもノミネートされました。熊谷達也先生の『邂逅の森』は直木賞と山周賞をダブル受賞しています。
これらとは性格が異なる文学賞としては、日本推理作家協会賞や星雲賞、大藪春彦賞のようにジャンル別の文学賞がいくつもありますし、江戸川乱歩賞やこのミステリーがすごい!大賞(深町秋生先生が受賞しているのではてなーにもおなじみ)のような公募新人賞も、趣旨が異なるので同列には論じられません。谷崎潤一郎賞や吉川英治文学賞のように、すでにいくつも賞を取っている作家に与えられる、ベテラン向けのさらに権威の高い賞もありますが、これまた芥川賞や直木賞と単純に比較はできないものであります。
本屋大賞は、作家や評論家ではなく書店員が投票する賞で、ほかの賞とはまったく性格が異なりますが、本の内容いかんよりも出版社から書店への営業力が、受賞を大きく左右するとも言われていたりします。
結局どの賞がいちばんすごいの?
- 作者: 児玉光雄
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2015/07/24
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログ (1件) を見る