ブラック企業の染色体

政治やビジネスの世界に「遺伝子」だの「DNA」だのという単語を持ち込む人は、ほぼ例外なくトンデモである、というぼくの持論があるんですけど。

天皇の遺伝子 男にしか伝わらない神武天皇のY染色体

天皇の遺伝子 男にしか伝わらない神武天皇のY染色体


ブラック企業大賞」の発表間際になって、労働基準監督署からの是正勧告および内部告発者への恫喝が話題になり、急遽エントリーされた「たかの友梨ビューティクリニック」ですが、本日の受賞発表で「業界賞」に輝きました。


「ブラック企業大賞」にヤマダ電機、 緊急ノミネートのすき家に「要努力賞」|弁護士ドットコムトピックス 「ブラック企業大賞」にヤマダ電機、 緊急ノミネートのすき家に「要努力賞」|弁護士ドットコムトピックス

長時間労働パワハラなどで悪質だとされる企業を選出する「第3回ブラック企業大賞」の発表会が9月6日、東京千代田区で開かれ、「大賞」に従業員の過労自殺をめぐる訴訟が起きている「ヤマダ電機」が選ばれた。


ブラック企業大賞は、労組やNPO法人、弁護士、ジャーナリストらによる実行委員会が企画。第3回となる今年は、7月に9組10社がノミネートされ、9月に「不二ビューティ」と「ゼンショーホールディングス」の2社が追加ノミネートされた。


大賞のほか、各賞も発表された。セクハラヤジ問題で話題を呼んだ東京都議会が「特別賞」を受賞。アニメ制作会社のA-1Picturesと、「たかの友梨ビューティクリニック」を展開する不二ビューティの2社に「業界賞」がおくられた。牛肉チェーン「すき家」を運営するゼンショーホールディングスは「要努力賞」となった。

で、国家公務員一般労働組合執行委員であり、労働問題に関するエントリをたくさん書いている井上伸氏が、「たかの友梨」についてこんな記事を書き、たかの社長の著書に記されているトンデモ発言を紹介しています。


「たかの友梨」は「やりがいの搾取」と「地獄の訓練」の洗脳を動員して「女性を食い潰すブラック企業」(井上伸) - 個人 - Yahoo!ニュース 「たかの友梨」は「やりがいの搾取」と「地獄の訓練」の洗脳を動員して「女性を食い潰すブラック企業」(井上伸) - 個人 - Yahoo!ニュース

あなたにウソをつかせるような人たちは遠ざけたほうがいいでしょう。「もっといい手があるから私にまかせて。ときにはズルも必要ですよ」 うまいことを言ってくる人は、本当にあなたのためを考えているのではなく、あなたを介して自分が得したいだけ。いざとなるとお金も出さず力も貸してくれないでしょう。こういう人と手を組んで儲けようとしたら、あなたのビジネスが汚れます。そして、一度汚れたビジネスは、ちょっとやそっとではきれいに戻りません。ウソをつくことで、一時的に何かがうまく回るかもしれません。しかし、ウソをついたという事実は、人々と自分自身の記憶の中に残ります。その記憶は、想像以上にあなたのビジネスをやっかいなものにします。


出典:たかの友梨著『なぜか、人とお金がついてくる50の習慣』(フォレスト出版株式会社)32ページより

「仕事がない」と言って健康な人が働かずにいるのは、とても不思議。仕事がないのではなくて、仕事を選んでいるだけのことです。もちろん、自分がやりたい分野の仕事を探すのはいいことです。でも、それは最低限の食い扶持を稼いでからのこと。まず生活のベースになるお金を稼ぐというのは、人が取り組まなくてはならない基本中の基本事項です。それをせずして、お金がないと言う人には、すっかり貧乏グセがついてしまっているのです。お金が足りなければ働けばいい。稼いだ以上のお金は使わなければいい。そうすれば貧乏にはなりません。


出典:たかの友梨著『なぜか、人とお金がついてくる50の習慣』(フォレスト出版株式会社)46ページより


これらの発言に、井上氏は、

そもそも「労働基準法にぴったりそろったら、(会社は)絶対成り立たない」「つぶれるよ、うち。それで困らない?」というたかの友梨氏の発言は、労働基準法を守らないという「ズルも必要」「ウソをつくことで(会社は)うまく回る」ということですから、たかの友梨氏本人が「遠ざけたほうがいい」と言っている人間になってしまっています。

こうした「働けば貧乏にならない」とか「貧乏グセがついてしまっている」ことが問題なのだという、たかの友梨氏の主張は、貧困問題を自己責任にしてしまうものです。

日本は世界で最悪レベルの働いても働いても貧困状態に置かれるワーキングプア大国であることをたかの友梨氏はまったく知らないようです。

などなど容赦ないツッコミを入れていますが、ぼくが気になったのはこちら。

女が働くということは、男の人の3倍の努力がいる。体力がないんだもの。脳細胞も女は男より少ないそうですね。染色体だって一個少ない。男より女が世に認められるには、一人じゃできないから、みんなで一つになって頑張るしかない。


出典:徳丸壮也著「第一線ウーマンパワーの実力――たかのビューティクリニック社長 たかの友梨」(『潮』1989年7月号所収)

1989年というから25年も前の発言ではありますけど、このインチキ科学っぷりはイタいですねえ。まぁそういうのが流行った時期ではあるんですけど、下村文科相が熱心に推進している親学あたりを見てもわかるように、弱者シバキ主義疑似科学ってのは容易に結びつく性質を持っているので、注意が必要です。


男性中心の社会において女性が働くとき、体力的なハンデもあり、より水準の高い努力を求められるというのはあるていど事実に即していますが(オレは「男まさり」という言葉が絶滅することを心から望んでいる)「脳細胞」とか「染色体」の話は非科学的にもほどがあるってモンです。脳の大きさで知能を測ろうというのは、100年以上前、シャーロック・ホームズの時代の話です。

(ちなみに、ホームズが忘れ物の帽子から持ち主の人物像を推理する有名なエピソード“The Adventure of the Blue Carbuncle”は、長年「青い紅玉」と訳されてきましたが、明らかに矛盾した言葉なので最近では「青いガーネット」「青い柘榴石」などと訳されています)



「染色体が1個少ない」というのも意味不明。X染色体とY染色体の違いは「1個少ない」という性質のものではないし、染色体が少なければ能力が劣るという事実はまったくありません。そんなこと言ってたら、チンパンジーの染色体は人間より2本多いし、犬の染色体は32も多い。(人間=46、チンパンジー=48、犬=78)



そして、超古代文明が作り出した生物兵器であるギャオスは、大きなものが一対のみというきわめてシンプルな染色体を持っており、それゆえに無駄な塩基配列がいっさいない完全な構造である、とされています。



平成ガメラシリーズにおけるギャオスは、昭和ギャオスにあった「頸椎が音叉型になっているので首が回らない」「太陽光線を浴びると細胞が死滅する」「地上では動作が鈍い」「宇宙ではギロンに負ける」「フィルムの光学合成にかかる予算のつごう上、超音波メスを使える回数に制限がある」などの弱点を克服し、単為生殖によりどんどん繁殖するという性質もプラスされた、まさに完全生物でありました。


人間より44本も染色体が少ないギャオスが、ガメラ以外では太刀打ちできない完全生物だったことを考えると、たかの社長の「染色体が一個少ないんだからよけい頑張らなくちゃいけない」という発言が、いかにトンデモかわかるでしょう。いやガメラの内容が科学的に正確だってわけでもないんですけど。


(最近、BS放送平成ガメラ3部作を見直したんだけど、BGMのせいで、どうしても脳が水曜どうでしょうモードに入ってしまうのであった)