美は乱調にあり

明日は防災の日。1923年に発生した関東大震災から90周年となります。

文豪たちの関東大震災体験記 (小学館101新書)

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日本災害史上最大の被害を出したこの震災では、情報を寸断された人々が不安に駆られて自警団を結成し、デマに駆られて朝鮮人を虐殺したことが知られています。これは社会学や心理学における重要な資料であり、さまざまな検証がされています。


しかし、東アジアの近代史に関連する事件がどれもそうであるように、この事件も、否定に躍起になる人が少なからずいます。具体例はこの辺を参照のこと。
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んで、今度はこんなクレームもあったようで。
90年前の「虐殺」で議論 横浜、副読本を異例の回収  :日本経済新聞 90年前の「虐殺」で議論 横浜、副読本を異例の回収  :日本経済新聞

 関東大震災直後に起きた朝鮮人殺害事件をめぐり、横浜市では市立中学校で使用している副読本にどのように記述するか議論が続いている。「虐殺」と明記した2012年度版は「誤解を招く」として、市は“異例”の回収措置を取り、一部の歴史学者らが反発、90年前の出来事がいまも暗い影を落としている。

 問題となっているのは副読本「わかるヨコハマ」。横浜開港150年の09年から、横浜市教育委員会が編集、毎年改訂を行っている教材だ。

 09〜11年度版は事件について「自警団の中に朝鮮人を殺害する行為に走るものがいた」と説明したが、12年5月に配布された12年度版は「軍隊や警察、自警団などは朝鮮人に対する迫害と虐殺(を行った)」と、「虐殺」と明記。謝罪と反省のために日本人が建てた慰霊碑の写真も掲載された。

 こうした記述の変化を一部メディアが大々的に報道。韓国や中国でも報じられ、市議会では昨年7月、自民党市議が「わが国の歴史認識外交問題に影響を及ぼしかねない。横浜だけの問題ではない」と批判。当時の教育長はその場で改訂と回収を行うと明言した。

 市教委はその後、記述変更に「手続き上の不備があった」として、責任者だった市教委職員を戒告処分。13年度版は記述を戻し、今年5月から12年度版の回収を始めた。

 各校長には2度にわたって回収を徹底するよう文書で通知、応じない生徒については理由を聞き取るよう指示した。

 ある市教委の担当者は取材に「通常は改訂しても回収まではしない」と異例さを認めるが、配布された約2万7千冊のうち8月半ばまでに約1万5千冊が回収されたという。

 市に28日、回収撤回を求める文書を提出した歴史学者らは「歴史事実を意図的に削除、変更することで、中学生に伝えるべき内容が後退する」と危機感を強めている。〔共同〕

最近は、『はだしのゲン』へのクレームなど教育現場における「行動する保守」界隈の動きが活発ですが、今回は市議によるクレームだそうで、何ともはやです。「外交問題に影響を及ぼしかねない」といいますけど、こっちのほうがよっぽど問題になりそうだとは思わないんですかね。


でもこの記事にも問題があるなぁ。市議や保守界隈が問題視しているのは、軍や警察が主体的に虐殺に関与したという記述(保守界隈は「そんな事実はない」と主張している)であって、単に「虐殺」という言葉を使ったことが問題じゃないと思うんですけど。



最近のネット界隈は「虐殺」という言葉にとても敏感で、とくに日本人が外国人を殺害した事件に「虐殺」という言葉を使うと、必ず反論が持ち出されます。


そのうち、吉田喜重の『エロス+虐殺』も、当局からのクレームで『情痴+死亡』とかに改題させられるんじゃないですかね。

関東大震災の混乱に乗じて殺害されたのは朝鮮人ばかりではなく、日本人の社会主義者アナキストも殺されています。とくに有名なのが大杉栄で、愛人の伊藤野枝、6歳の甥ともども憲兵に連行されて、殺害されました。実行犯として逮捕された甘粕正彦大尉は、軍法会議で有罪となりましたが、短期の服役後、満州に渡って傀儡政権の重鎮として暗躍したことがよく知られています。


この殺害事件と、大杉栄の女性スキャンダルを題材にしたのが『エロス+虐殺』ですが、実際の作中では殺害を直接的に描いてはおらず、ついでに言うとエロスもあんまりない、決して娯楽的ではない難解な映画です。ランタイムも3時間半と非常に長いし。

  • エロス+虐殺 予告編


まぁ、最近の人はあんまりこういう映画は観ないかもしれんですけどね。



ちなみに、円谷プロの『ウルトラファイト』でも、この映画のタイトルにちなんだ「イカルス+虐殺」というエピソードがあるんですけど、これもクレームついたりしてね。

ウルトラ怪獣シリーズ 28 イカルス星人

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