黒い太陽731
アルフレッド・ヒッチコックの『サイコ』とトビー・フーパーの『悪魔のいけにえ』、ジョナサン・デミ(トマス・ハリス原作)の『羊たちの沈黙』は、どれも同じ、実際にあった事件をモチーフにしている。
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ゲインはごみを捨てるということをしなかったため、自宅はすさまじく散らかっており、その中には大量の人骨や皮膚のオブジェとともに、内臓を抜いて吊るされた被害者の死体があった。新鮮な死体を「肉」としていたことは一目瞭然であった。
この事件は全米に大きなセンセーションを巻き起こし、ゲインの使っていた車が業者に買われ見世物になるなどした。
ゲインは精神異常と判断されて罪を問われることはなく、収容された病院で穏やかな生活を送り、1984年に77歳で亡くなった。
ヒッチコックは、ゲインと母親の倒錯した関係に目をつけ、『サイコ』のノーマン・ベイツを創造した。
トビー・フーパーは、ゲインの乱雑で不潔な自宅と人皮マスクに目をつけ、『悪魔のいけにえ』のレザーフェイスおよびソーヤー一家を創造した。
トマス・ハリスは、ゲインの人皮ベストと性倒錯に目をつけ、『羊たちの沈黙』のバッファロー・ビルを創造した。
もちろん、これらの作品はゲインの実像とは甚だしく異なる。ゲインの家はモーテルではないし、死体を解体するのにチェーンソーは使っていないし、腕にギブスをはめた姿で被害者を油断させたのはゲインではなくテッド・バンディの手口だ。だからといって、これらの名作を「事実を歪曲している」と批判する人はまずいない。実際の事件はあくまでインスパイア元であり、そこから生まれた創作が事実そのままである必要はないからだ。
これらはあくまで「モチーフにした」にとどまっているが、実在の人物を実名で描く作品も、やはり事実とは異なる部分があり、製作者が表現したいテーマがそこにはある。
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わが国で、実際にあった事件をモチーフにした映画といえば、深作欣二の『仁義なき戦い』シリーズが有名だが、これにしても事実と異なる点は多い。
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(↑これが大西政寛)
さて。
内藤瑛亮監督の自主制作映画『先生を流産させる会』の劇場公開が決まり、物議をかもしている。
http://matome.naver.jp/odai/2133117753223837401
これは、2009年に愛知県半田市で起こった事件をモチーフにしている。担任教師を嫌う男子生徒たちが「先生を流産させる会」を結成し、教師の車を汚したり、椅子のねじを緩めたり、給食にみょうばんを混入するなどした事件だ。このnaverまとめでは「悲惨な事件」とあるが実際には稚拙ないたずらであり、教師には何の被害もなかった。いたずらされていることにすら気づかなかったほどである。とはいえ、込められた悪意は深い。芸術家の創作欲を刺激するのもうなずける。
映画の内容はこちらを参照のこと。
先生を流産させる会/先生、妊娠してるんだよね。気持ち悪くない? | 映画感想 * FRAGILE
現時点では映画祭などの上映にとどまっているため、ぼくはまだ観ていないが、実際に観た人の評価は高い。
映画では、男子生徒を女子に置き換え、成長する女子たちの、性へのとまどいと恐れが、妊娠した教師への悪意に向かうことになる。思春期の女性の、性へのとまどいをテーマにした作品は少なくない。スティーヴン・キングの(ブライアン・デ・パルマによる映画も有名な)『キャリー』はその代表といっていいであろう。
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事実を基にしながら、内容を変えたことについてこのような文句も出ている。
http://alfalfalfa.com/archives/5278977.html
437 名前:名無しさん@恐縮です :2012/03/08(木) 08:09:00.12 ID:9Bk1vgs/O
てか実話とかいいながら話変えすぎ
胎児も死んでないのに死んだ設定?なんなんだこの監督
450 名前:名無しさん@恐縮です :2012/03/08(木) 08:16:43.73 id:bHC2S59w0
男子生徒がやったことを女子生徒設定にするって意味が違いすぎね?
つうか社会人で男女を変えるよりまったく意味が違ってくる
519 名前:名無しさん@恐縮です :2012/03/08(木) 09:09:54.34 id:PWYBzkMS0
誰も知らないとか八日目の蝉とかもだけど、実際のグロい事件からネタ拾って
自分の思想を盛り込んだり綺麗なお話やショッキングな展開にするために
さんざん捏造・美化しておきながら「実話を元にしています」って
アホか
コメント欄より
1006 学名ナナシ : 2012年03月08日 23:01
普通に男子中学生のままで作れよ
それをしないってことは、つまり、この映画で伝えたい事は意図するものがあったりするんだろうなぁ
現実とフィクションで意味が違い、作者の思想を盛り込み、伝えたい意図があるのは当たり前の話である。
園子温の『愛のむきだし』や『冷たい熱帯魚』『恋の罪』も、実際にあった事件をモチーフにしている。
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アニメ系ニュースサイトがこの映画をよく叩いているが、もしかして一部のアニメファンは「実写=現実をそのまま描くべきもの」とでも思っているのだろうか。絵で描こうが役者に演じさせようが、作劇という点では同じなのに。
園子温作品のときは、こんな反応はほとんど見られなかった。単に彼らの興味の領域外だったのかもしれないが、「妊娠」や「中絶」の話題は2ちゃんねるでは必ず盛り上がるので、そこが彼らの琴線に触れたのかもしれない。
ちなみに、関東軍731部隊の人体実験を描いた香港映画『黒い太陽731』という作品がある。
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内容がいかに事実から離れていたとしても、映画にいちばん大事なのは面白さである。まず面白いことが第一なのだ。