1954年の木村政彦
- 作者: 柳澤 健
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2011/09/13
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うなづける内容ですが、ならばその30年前には、木村政彦は観客から感情移入される存在になぜなれなかったのでしょうか。
- 作者: 増田俊也
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2011/09/30
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この「巌流島の決闘」で力道山は事前の約束を破って木村先生をKOするわけですが、それはさておき、のちの長与理論に従うならば、試合をリードするのはやられ役の木村先生のはずです。
敗戦からわずか9年、アメリカに強いコンプレックスを持っていた当時の日本人にとって、大きなシャープ兄弟が小柄な木村先生を痛めつける光景はショッキングであり、木村先生に大きな同情と共感が集まっていたとしてもおかしくありません。人間のドラマを作るのは木村先生であり、力道山は空虚なヒーローになっていたとしてもおかしくないはずです。
しかし、現実のプロレスではそうはならず、力道山は国民的スターになるものの、木村先生は地元のローカルヒーローにとどまり、間もなくプロレス界からフェイドアウトします。
木村先生はあくまで柔道家、アスリートであってパフォーマーではなく、苦痛のパッションを表現することに生き甲斐を感じることができなかったのが、先生の不幸だったのでしょう。
長与千種は「試合に負けるのは快感だ」とまで言っていました。負けることで会場の注目と同情をすべて集めることができるから、というのですが、「負けたら腹を切る」と柔道の試合前夜には実際に短刀で切腹の練習をしていたという木村先生に、そんな発想ができるはずもありません。それに対し、力道山はルー・テーズにちゃんと破れ、それでも観客を満足させることができました。力道山はスターになったのに、木村先生がスターになれなかったのは、当然のことだったのです。