PRIDE武士ロード

年が明けて三日目ともなりますと、すでに話題の中心は紅白だのあゆ結婚だのからスカスカおせち遅配にすっかり移っております。お店のゴミを漁って食材の産地偽装を疑うなど、亡き村崎百郎にも通じる熱意でもってバードカフェを糾弾したり、なぜか直接には関係ないふらんす亭の社長まで吊し上げを喰う、という異常事態に発展しております。吹き上がってるのは、別にダメおせちを買った人たちでもないでしょうに、ヘンな正義感に突き動かされてる人たちってほんとタチが悪いですねぇ。


んで、格オタ的にはこのお正月といえば、なんといってもTBSのDYNAMITE!でした。ボブ・サップは会場入りまでしたのにギャラの不満で逃亡(これで業界から永久追放であろう)、桜庭和志はカリフラワー状になった耳が半分もげて大流血(対戦相手のザロムスキーには、ぜひキラー・ザロムスキーに改名してベジタリアンになっていただきたい)、石井慧ジェロム・レ・バンナを圧倒しながらも一本勝ちを狙う気配がまったく見られない省エネファイトで観客のブーイングを誘い、泉浩は減量から解放されてドロンズ石本みたいなメタボリック・バディを披露、ミノワマンは「猪木さんに勝利を捧げたい」と相変わらずのトンパチ発言をしたあげくメタボ泉に惨敗、川尻達也の試合は結果のみのダイジェスト放送ながら「元横浜ベイスターズ対ボビーの弟」というシロウト試合は放送するという謎の構成。どれをとっても「これぞTBS」という風格すら漂ってくるズンドコっぷりでしたが、その中でも白眉だったのが、青木真也長島☆自演乙☆雄一郎異種格闘技戦でしょう。


組み技のスペシャリストである青木と、打撃専門の長島。この二人が戦うために特別ルールが設定されましたが、これが1ラウンドはキックルール、2ラウンドは総合ルールというチェスボクシングみたいなズンドコもの。しかも判定はなしで時間切れの場合は引き分け、というからエキシビジョンマッチ以上の意味を持つものでは到底ありません。以前「探偵! ナイトスクープ」で、将棋の先崎学八段と、ボクシング元2階級制覇王者の井岡弘樹が「将棋ボクシング」を戦い、先崎が王手寸前まで追い詰めたものの井岡のレバーブローを喰らってKOされるという結果に終わりましたが、これで「ボクシングは将棋より強い」と結論づける人はまずいないでしょう。でもK-1MMAなら、なんとなく成立してしまうような扱いになるのが格闘技のおかしなところです。


で、第1ラウンドで青木はひたすら逃げ回り、タックルとも見えるクリンチを仕掛けたり、当たらない間合いでハイキックを出して転倒してみたり、ドロップキックやニールキックで時間を稼ぎます。自演乙はイラだった様子を見せ、島田レフェリーは口頭で注意を与えますが青木はドコ吹く風といった風情。どうせ判定はないんですから減点もなにも関係ありません。これをとやかく言う人もいますが、そもそも青木はヒール的なファイターですから、こうやって観客の神経を逆なでするのも仕事のうちです。解説の魔裟斗が怒ってみせるのも予定調和といっていいでしょう。無事に1ラウンドが終わって、さぁオレの時間だとばかりに得意げになった青木でしたが、2ラウンド早々に不用意なタックルをしかけ、ものの見事にカウンターの跳び膝蹴りを喰って完全に失神。明らかに油断していた動きで、かねてより青木の実力を買っていたぼくなんかは大いに落胆させられました。「青木には”殺し”がある」なんて言い方で武道家として高く評価されていた人が、相手をナメて負けるなんてのは、これまでのキャリアを一気に台無しにするほどのダメージです。でもプロレス的には、これ以上ないほど正しいブックではありますけどね。相手をナメきっていたヒールが、自分に有利なルールに変わった途端に失神KO、なんてのは全盛期のゴマシオでも仕掛けられないアングルですよ。


それにしても、青木の2ちゃんでの嫌われっぷりはすごいですね。バードカフェの社長とかと同様に、あの共同体からは「敵」とみなされているようです。「脱糞した」とか悪意のある都市伝説も流布されていますし(どこの世界にうんこ我慢しながらリングに上がるバカがいるんだよ)、そういう扱いを受けるきっかけになった昨年の腕折りにしても、そこに至るまでの紆余曲折もあるし、中指立てにしたって、人の腕を折って正常な精神状態でいられるほうがおかしいってモンです。でもその辺のことは理解されないんですねぇ。


まぁ青木のことはもうよろしい。正直いって彼には失望しました。それより、勝った自演乙ですが、今回の入場時のコスプレが、何のキャラなのかぼくには全くわかりませんでした。調べてみると、自演乙が扮していたのは『探偵オペラ ミルキィホームズ』なるアニメの明智小衣というキャラで、バックで踊っていたのはそのアニメの主人公やライバルら美少女キャラ、それに扮していたのはアニメで実際にそのキャラたちを演じていた声優さんだというから、なんとも豪華な仕掛けです。

なんでそんな仕掛けができるんでしょう。初代タイガーマスクの入場に小山茉美と間嶋里美(アニメ『タイガーマスク二世』でファンの姉弟を演じていた。役柄では姉弟だが実生活では二人とも古谷徹と結婚した「姉妹」である)がついてきたなんて話は聞かないし、獣神サンダー・ライガーのバックで伊藤美紀松井菜桜子(アニメ『獣神ライガー』のヒロイン姉妹を演じた)が踊っていたなんて事実もありません。
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まぁ当時はコスプレという文化が定着していませんでしたから当たり前のことではありますが、それにしたって、自演乙の格はそんなに高くもないでしょうに、どうしてそんなに大掛かりなのか。


実は、この『ミルキィホームズ』は株式会社ブシロードが制作・展開させている作品であり、自演乙はそのブシロードからスポンサードされているんですね。しかも、自演乙個人のみならず、K-1自体のスポンサーとしても、ブシロードが参加しています。


さらに自演乙は、試合終了後のインタビューでこんな発言もしています。
http://sportsnavi.yahoo.co.jp/fight/other/live/2010/2010123101/6.html

――今回はゲームにも出演するということですが

 出演させてもらうんですけど、僕個人のスポンサーだけじゃなく、K−1のスポンサーもされているんで、言うべきではないかもしれないですが、スポンサーを連れてこれるファイターは重要なんじゃないかと思います。

これは何気に重要な発言ですねぇ。なんだかんだいって、現在の格闘技業界も、タニマチ頼みの「ごっつぁん」体質から脱却していない、脱却できないということを、ファイター側から言ってしまっているわけですよ。


リングの上とタニマチは関係ない、と選手は言うでしょうけど、そこにキナ臭いものを感じないでいられるほど格オタはピュアではありませんよ。昔は、アントニオ猪木のタニマチが佐川急便の佐川清会長だったのは有名な話ですが、今の格闘技はパチンコとアニメ一色になってしまっていて、なんともモヤっとした気持ちになってしまいますねぇ。

パチンコがアニメだらけになった理由(わけ)

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