紋切り型演出あれこれ

このエントリを見ていて思い出したこと。


アニメではよく見るが実際には見たことない光景 : イフカルト - ライブドアブログ


唐沢商会の本で読んだエピソードですが、唐沢俊一さんが知り合いの右翼団体の事務所に行ったとき、ロケット工学かなんかの研究者が来ていたというんですね。

ガラダマ天国―唐沢商会提供

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その人に対し、右翼の青年が椅子を勧めて「博士、こちらへどうぞ」と言っていて、アニメ以外でひとが「ハカセ」と呼ばれるところを初めて見た唐沢さんは非常に感動したとのことでした。


こういう、アニメでしか見られない演出というのはいっぱいありますね。上のエントリでは萌え系のステロタイプがいくつも挙げられていますが(幼馴染みの女の子が朝に起こしに来る、とか)アクションものとかスポーツものでも、よく見られるものがあります。

  • 銃を構えると「チャッ」と音がする

これはいつ頃からある演出なのかわかりませんが、銃を用いたバトルものではまぁ必ず出てきます。そんな些細な振動で音を立てるようなチャチい銃なんて怖くて撃てませんけどね。ひどいときは銃だけでなく、刀を持ったときにも「チャキッ」と音がすることがあります。目釘ぐらいちゃんと打って固定しておかないと、振り下ろしたら刀身がどっか飛んでっちゃいますね。

  • 腹を殴られて口から血を吐く

これもよく見る演出ですが、実際に口から血を吐くのは口の中が切れたり歯が折れたりして口内出血した場合であって、ボディへの攻撃で吐血したらそれは内臓破裂です。死にます。

  • 主人公が走っていると、地平線の向こうからゴールや相手がせり上がってくる

キャプテン翼』なんかでよく見られた演出です。どんだけ広いフィールドなんでしょうか。ひどいときには、ボクシングとかプロレスものでもこの演出が見られました。リングって6m四方しかないんですけどね。

実際にやってみるとわかりますが、人間の前腕部はせいぜい270度しか回りません。ゴムゴムの実でも食べないと、あんなふうにグリングリン回転させるのは無理です。


あと、スポーツ漫画では、実際のルールでは反則になる技が出てくることもよくあります。『はじめの一歩』の現在連載している分では、リングを縦横無尽に駆け回って変則的なパンチを打つ、野生児ウォーリーが一歩と対戦しています。これは、『あしたのジョー』に登場した野生児ハリマオ(人語をほとんど解さず、チョコレートで気を引かないとまったく言うことをきかない)へのオマージュキャラなんでしょう。

あしたのジョー(11) (講談社漫画文庫)

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でも、ハリマオは空中で三回転しながらパンチを放っていましたが、ウォーリーはのけぞってスライディングしながらパンチを出す程度(それでも充分にマンガ的だが)にとどまっています。それもそのはず、空中三回転は物理的に不可能なうえ、ボクシングのルール的にも、身体を回転させた勢いを利用するパンチは「ピボット・ブロー」と呼ばれる反則です。これはやらせるわけにはいかないですね。


柔道一直線 DVD-BOX 1【初回生産限定】

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大野剣友会の破天荒な殺陣で実写化された『柔道一直線』も『ジョー』と同じ梶原一騎原作ですが、この作品でも、担ぎ上げた相手を放り投げたり、必殺技「地獄車」で頭と脊椎を攻撃したりしています。これらの行為は一発で失格になる反則で、オープニングで出てくる「壁を突き破って投げる」なんてのは反則負けどころか道場出入り禁止レベルです。


一番ひどかったのが島本和彦の『逆境ナイン』。

逆境ナイン (5) (サンデーGXコミックス)

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甲子園出場を賭けた県大会決勝戦で、メンバー9人のうち主人公を除く8人が負傷して打席に立てなくなるのですが、ここで透明ランナー制を採用して試合を続行します。


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映画版ではここはちゃんとギャグとして演出されていましたが、原作では、作者が野球のルールをよく知らなかったため(
先輩漫画家の岡崎つぐおから吹き込まれた冗談を間に受けたといわれている)完全にマジで描いています。これ、雑誌に載ったときはきっと読者の抗議が殺到しただろうなぁ。