プロレス暗黒伝説

クリス・ベノワの死に関して、だんだん情報が出てきましたがもうどんどん落ち込むばっかりであります。

今のところ、

  • クリスが妻を絞殺、次いで息子を枕で窒息死させ、自分は自宅のトレーニングルームで首吊り自殺
  • 原因は不明だが、ステロイドの副作用による鬱病、息子の難病など悩みが多かった

という流れになっているようです。やりきれねえなあ、やりきれねえよあんまりだよこんなの。



豪快なファイトでファンを惹きつける、プロレスラー。


しかし、古くから彼らの人生にはある種の影のようなものがちらつき、非業の死を遂げた人も少なくありません。

キラー・バディ・オースチン

バディ・オースチンは、力道山時代の名レスラー。

必殺のパイルドライバーで対戦相手を二人死なせている、という剛の者で、日本巡業中に知り合った女性と婚約発表をする(本国に妻子があるのに!)、真樹日佐夫と喧嘩をする、など素行に問題のある人物でもありました。


そして、幼い娘がプールで溺死するといういたましい事故に遭い、これを「死んだ二人の呪いだ」と思い込んだオースチンは試合もできず酒びたりの生活を送り、晩年はアルコール依存症に苦しめられながら寂しく亡くなりました。


なお、彼のパイルドライバーは安全面の配慮が欠けており、死亡事故が起こるのも無理のないものでした。
http://www.showapuroresu.com/waza/pile.htm

ブルート・バーナード

昭和40年代から50年代にかけ日本でも活躍した、悪役レスラー。

スキンヘッドの異様な人相で、ヨダレをたらし唸り声を上げながら観客を追い回す、試合の最初から最後までひたすら金的攻撃に終始する、など狂気を感じさせるパフォーマンスでファンを震え上がらせた怪奇派でした。

大木金太郎との試合では、角材で大木の頭を一撃した際に手元が狂って耳を直撃、大木の耳がちぎれかけて大流血するというアクシデントの当事者ともなり、オールドファンによく記憶されています。


しかし、実際には大学で哲学と演劇を学んだインテリだったといわれ、交通事故で骨折した腕にボルトを入れて試合に強行出場するほどのプロ根性の持ち主。

また、ベトナム難民の子供たちを雑誌で見て涙を流し、その日一日食物が喉を通らなかったり、夜通し運転するツアーバスの運転手を気遣い、一睡もせずに運転席の横で付き合っていた、など人情派のエピソードも多く伝わっています。

晩年は、思うように動かなくなった体を悲観してピストル自殺を遂げました。


なお、近年新日本プロレスに参戦しているジャイアント・バーナードは、彼のギミックを継承している部分もありますが血縁関係などはありません。

スカル・マーフィ

バーナードとタッグを組んで暴れ回っていたレスラー。

こちらもスキンヘッドですが、バーナードが頭以外は全身剛毛だったのに対し、こちらは全身まったくの無毛。
子供の頃にしょう紅熱にかかり、毛がすべて抜けてしまったという触れ込みでした。


レスラーとしてのタイプも異なり、バーナードが野獣的だったのに対してこちらは静かな狂気を感じさせるインテリヤクザ系。
レスラーになる前は弁護士だった、ともいわれています。


力道山の肩を亜脱臼させ、空手チョップを使えなくしたのもマーフィでした(さすがにこの時は平謝りだったという)。


私生活でも情緒不安定な面が見られ、最期は1970年にピストル自殺を遂げます。


パワー・オブ・ドリーム (角川文庫)

パワー・オブ・ドリーム (角川文庫)

第二期UWFで人気絶頂にあった前田日明の「自伝」として出された『パワー・オブ・ドリーム』には、イギリスでスカル・マーフィと対戦し、舐めた態度を取ってきたため腕を折ってやった、というエピソードがありますがこれは時期的に矛盾しており、二代目がいたのか、それともアキラ兄さんの勘違いか、もしくは書いた人間の取材不足によるものと思われます。

ユーコン・エリック

オールド派プロレスファンの間ではあまりにも有名な、「キラー・コワルスキー耳そぎ事件」の被害者となったレスラー。

1959年、モントリオールで行われた試合において、コワルスキーが放ったニードロップがエリックの耳を直撃し、耳がそぎ落とされてしまったというこの名高いアクシデントですが、近年になってアングル説も浮上しています。


エリックの耳は、カリフラワー化が極度に進行しており、血行が妨げられて壊死を起こしていた。
このため、切除することになったのだがその事態をコワルスキーの売り出しに利用した、というもの。


この説の真偽は不明ですが、確実にいえるのは、この耳そぎ事件はコワルスキーに大きなメリットをもたらした、ということ。

実は若い頃からベジタリアンだった彼ですが、「血の海に浮かぶ耳を見て以来、肉が食べられなくなった」というギミックはキャラ立ちに大いに役立ち、残忍な悪役として人気を博しました。



エリックの方は、耳そぎ事件から10数年後にピストル自殺。

妻に逃げられたため、というその理由は、耳ともプロレスとも直接関係はありませんが、これもコワルスキーの伝説のひとつとして、梶原一騎に利用されることになりました。

プロレススーパースター列伝 (6) (講談社漫画文庫)

プロレススーパースター列伝 (6) (講談社漫画文庫)

竹村正明

今回のベノワ事件で、最も近いものを感じさせる人物。


元は「土佐の花」という力士だった竹村正明は、力道山門下の日本プロレスに入門、日本人には貴重なヘビー級レスラーとして期待されていました。

しかし、そのトンパチな言動によって周囲をハラハラさせることの多かった竹村。

ついにあるとき力道山の勘気に触れ、解雇されてしまいます。


精神状態はますます悪化し、「退職金をよこせ」と事務所に押しかけたり、「今度月に行くことになったのでパスポートが必要だ」と言いはじめる、などその言動は異常性を帯びていきます。


その頃、知人の勧めで包茎手術を受けた竹村ですが、手術は失敗し、執刀医を怨むようになりました。


そして、医師の自宅ガレージに侵入し、帰宅してきた医師を短刀で刺殺してしまいます。


ところが、殺害したのは医師の息子で、人違い殺人でした。


「とんだことをしてしまった!」と気づいた竹村正明は、凶器の刀を腹に当てて壁に突進し、パスポートなしで月へと旅立ったのでありました。

このエピソード、門茂男のこの本にしか載っておらず、これ以上の詳しい情報はネットにもないので不明な点が多いのですが、今回のクリス・ベノワの死に近いものを感じ、どうしようもなく暗鬱な気分になってしまいます。



プロレスラーとしての実力や実績では、比べ物にもならないんですけどね。