ついてゆけぬ人だ

年の瀬だというのに、なんとも物騒なエントリを見かけました。


http://d.hatena.ne.jp/nitino/20061226



正論だからといって配慮なくズバズバ言う人は嫌われる、というまぁごく普通の話題なわけですが、タイトルからちょっと連想した人物がいます。


我らが燃える闘魂アントニオ猪木です。

アントニオ猪木自伝 (新潮文庫)

アントニオ猪木自伝 (新潮文庫)


横浜市から一家でブラジルに移民した猪木は、昭和35年、17歳のときに知人の紹介で力道山に弟子入りし、付き人として厳しい指導と虐待を受けます。


その様は、漫画「プロレススーパースター列伝」でも描かれ、力道山の存命時代を知らない世代にもよく浸透しています。

プロレススーパースター列伝 (5) (講談社漫画文庫)

プロレススーパースター列伝 (5) (講談社漫画文庫)

同時入門したジャイアント馬場が、その常人離れした体躯に商品価値を感じた力道山によって優遇されていた*1のに対し、付き人の猪木はささいなことで靴べらで顔面を殴られたり、反抗的な表情をすると、

なんじゃっ、その陰気な目つきは!
おまえはイノキじゃなく、インキと改名せえーい!

と罵倒される、などの激しい虐待を受けていました。ちなみに猪木は当時17〜19歳の少年です。


まぁこの理不尽な厳しさは、周囲に威圧感を与えるための力道山のパフォーマンスという側面もあり、また、当時の力道山が薬物を常用していて、精神的に不安定だったこともあったのですが、いずれにしてもやられる側としてはたまったものではありません。


のちに、猪木は師匠への思いを、

包丁持ってきてブッ刺してやろうかと
思ったこともありましたよ、ンムフフフ

と語っております。



漫画では、力道山は亡くなる直前に急に優しくなり、「今まで厳しくしたのは、お前を強く育てるためだったのだ」とその真意を語ります。ここから、力道山ツンデレの先駆けと評する向きもないこともないのですが、実際にこんなデレ化があったとは思えません。梶原一騎特有の大胆な脚色でしょう。



ご存知のように、力道山は昭和38年の暮れにささいなトラブルから*2暴力団員の村田勝志に登山ナイフで刺され、一時は快方に向かうものの一週間後に腸閉塞を発し、亡くなります。


この、力道山の急死については「気管内挿管の失敗」というのが現在の定説になっています。


ですが、長らく「飲食厳禁にも関わらず、サイダーを飲んだ」という説が信じられていました。


前述の「列伝」でもこの説が採用され、「見舞い客の持ってきた寿司まで平らげたという説もある」とまで書かれています。



どこの世界に、腹の手術をして飲食厳禁の人に寿司を持ってくるバカがいるんでしょうか。




しかしこの説はかなり信じられており、中には「師匠を憎んでいた猪木が、これ幸いと飲ませた」などという、悪意ある、しかし一定の説得力を持った説まであったくらいです。

馬場・猪木の真実 (角川文庫―門茂男のザ・プロレス (6011))

馬場・猪木の真実 (角川文庫―門茂男のザ・プロレス (6011))

板垣恵介の漫画版「餓狼伝」でも、同様な猪木観によるエピソードが収録されていて、猪木をモデルとするグレート巽が、ナイトクラブの便所で、師匠の「力王山」のキンタマを握りつぶし自殺に追い込むという超ブルータルな展開が楽しめます。

餓狼伝(7) (アッパーズKC)

餓狼伝(7) (アッパーズKC)

ちなみに、この時点で原作小説に力王山は全然出てきてません。
この辺から、この漫画版は男の哀愁漂う原作とはまったく別の狂ったベクトルをいかんなく発揮し、とくに藤巻十三は夢精してパンツを手洗いしてみたり、怪しすぎる変装で試合場に現れたものの一瞬で刑事に見抜かれたりと完全にネタ提供要員になってしまいました。


そんな餓狼伝ですが、こんどはゲーム第二弾が出るそうです。


http://www.famitsu.com/game/coming/2006/12/21/104,1166700507,64835,0,0.html


原作では丹波文七のライバルとして登場している梅川丈次は、漫画版にはいまだ登場しておらず、今回のゲームが初登場となりました。


原作発表当時は、ブラジリアン柔術がまだ一般に浸透していなかったためある程度新鮮な戦い方をするキャラとして受け入れられたのですが、今さら「ブラジルで柔術を学んだのさ」とか言われても困ってしまいます。


はたして漫画に出れるのか、出たとしても藤巻のツンデレぶりに勝てるのか、心配でなりません。

*1:もっとも、馬場も酒席でのジョニ黒一瓶強制一気飲みや、巡業の移動時ずっと両手にダンベルをくくりつけられる、アメリカ遠征時のギャラを強制的に借り上げられるなど理不尽な扱いは充分受けている。

*2:現在に至るも背後関係にはいろいろきな臭い説があるが、いちおう起訴事実ではそういうことになっている。